「ごめん。」

ドア越しに何度も聞こえる謝罪の言葉。

「帰る時間になっても雨降ってて…。ちょうどそこにあいつが来て、同じ方向だから傘に入れてもらったんだ…。ほんとごめん…。」


それは何に対する謝罪?


心配かけたこと?

女といたこと?


俺に惨めな思いをさせたこと?

真っ暗な部屋に、壁にもたれる背中がズルズルと沈む。

目に写るのは、机の上の写真。

「西江戸中学卒業式」と書いてある立て板の前に、細長い筒を持って、2人仲良くピースしている。





『晋助…晋助…。愛してる…。』




その日、銀時と一線を越えた。


すごく幸せだった。


笑ってた。


銀時が笑顔をくれたから。




でも俺は銀時の笑顔を奪う。


縛り付ける。


俺は銀時の幸せをつくってやれない。


そっとドアを開けた。

目の前には、不安げな銀時。

俺は言った。

「銀時…別れよう。」

俺じゃ、ダメなんだよ。

「な、何言ってんだよ!!俺が悪かった!!もう不安にさせない!!だからそんなこと言うな!!」

必死に止めようとする銀時。

「俺、嫉妬深いんだ。」

分かってる、自分でも。

「だから、銀時にとって何気ない行動も、俺にとってはすごく嫌だ。今日だって、周りからしたら大したことじゃないかも知れない。でも…許せないんだ。」

そんな自分が大嫌い。

「このままじゃお互い潰れるよ。俺は銀時に笑っていてほしい。だから別れよう。もう俺を忘れて。」

「晋助…。」

「俺は銀時を愛し過ぎた。」


最後まで愛してくれてありがとう、銀時。


さよなら。








――――――…





2年後。


俺は大学を卒業し、京都でインテリアコーディネーターをしていた。

大手企業であり、給料も安定している。

今日も定時あがりだ。

「お疲れ様でしたー。」

俺は職場から電車で30分のマンションに住んでいる。

オートロックで、まあまあ綺麗。

電車に乗り込むと、前の席に男女のカップルが座っていた。

うとうとする彼女を優しく引き寄せる彼氏。

微笑ましく感じた。

あの頃を思い出す。


あなたは今、幸せですか?


駅につくと、ゆっくり改札を抜けて夕日をみた。

オレンジ色の光がすごく眩しい。


『……す…け。』


『…晋助。』

逆光の中、銀時が笑う。


あの頃と変わらない笑顔。

涙が溢れた。


今更になって痛む心。

手放したくはなかった。


気づいたよ。

俺は今も変わらず銀時だけを愛してる。

「ごめん…銀時…。」


その瞬間、目の前に見覚えのある顔があった。


幻覚でもない。

あの頃でもない。


髪が伸びて、少し大人になった銀時がいた。


「…ぎ…ん…」

「晋助。」


いろんな思いがごちゃごちゃになって、涙が止まらない。

「晋助、好きだ。」

銀時の声が酷く切なく染み渡る。

「ここまでくるのに2年かかった。でもやっぱり忘れることなんてできない。傍にいてほしい。」

銀時の顔が歪んで映る。

「愛してるよ、晋助。」


「銀時ッッ!!」


その瞬間、俺は銀時の胸に飛び込んだ。


「銀時ッッ!!銀時ッッ!!ごめんッッ!!」


「謝らないで…。」

優しく、強く抱き締められる。


銀時が愛おしくてたまらない。


「今度こそ、ずっと傍にいる。愛してるよ…銀時。」


そして今度こそ、銀時を笑顔にするから。



END.



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