「せんせ、海行きたい。」
「却下。」
「なんで。」
なんでって…
「今冬だよ?」
「行きたいもんは行きたいんだよ。」
「じゃあひとりで行けば?」
「却下。」
「…。」
なんでこんなワガママなんだコイツ。
高杉は、俺のクラスの生徒。
たまに顔出したと思ったらこれだ。
「とにかくこんな寒い中行きません。てかなんで俺が連れてかなきゃなんねぇんだよ。」
「俺車持ってねぇし。」
「先生の車はパシられるためにあるんじゃありません。」
「この腐れ天パ。」
「よし、帰ろうか高杉くん。」
「特上パフェ奢ってやる。」
「よし、海行こうか高杉くん。」
――――…
というわけで、
「さーむっ。」
海に来てます。
12月の。
高杉はひとりさっさと歩いて行った。
「たーかすーぎくん。どこまで行ってんの?濡れるよ?」
「…。」
シカトかい。
俺は近くにあった自販機でホットコーヒーを2つ買った。
さすがに12月に海へ来てるやつは他にいないな。
高杉は波打ち際に立って、どこか遠くを見ていた。
たそがれてんのか?
そう思って缶コーヒーを渡そうとすると、高杉の声によって遮られた。
「俺の親、離婚すんだって。」
え?
「ずいぶん前から仲悪かったんだが、最近発覚した親父の浮気で離婚が決定的になった。」
「高杉…お前…。」
「情けねぇよ。親なんかどうでもいい、離婚しようがしまいが関係ねぇ、って思ってたのに…いざとなると、やっぱりキツい。」
哀しげに高杉が笑った。
俺はなんて声をかけたらいいか分からず、黙ってコーヒーを渡した。
「小さい頃……まだ家族が仲良かった頃、よくここに遊びに来てたんだ。一番、幸せだった。」
高杉は俺を見て言った。
「ありがとな、銀八。ここに連れてきてくれて。」
俺は高杉をそっと抱きしめた。
――――…
あの後、高杉を俺の家に泊めた。
ほっといたら危なそうだったし。
隣でスヤスヤと眠る高杉。
普段はすました顔をしているが、寝顔はまだあどけない。
「俺だけはずっと傍にいるよ。どんなことがあっても、必ず守るから。」
優しくキスをすると、高杉が少し笑った。
さて、学校に行く準備しますか。
END.