「どうぞご覧くださーい。」


いた。

俺の王子様。

駅ビル4階、最近できたばかりのright off。


爽やかな笑顔で客を呼び込む「坂田サン」。


彼は正直、すごいイケメン。

俺は正直、すごいメンクイ。


少しでもいいから彼を見たい、近くにいたい、話したい。


今日で開店から5回目の来店。

毎回適当に買って帰るが、だいたい違う店員が接客してくる。


今日こそは、憧れの坂田さんに接客してもらいたい。


俺はとりあえずジーンズを探すフリをした。

彼がいるのはロンT売り場。

客が広げたロンTを、きちんとたたみ直しているようだ。


手…長くてキレイだな。


そんなことを考えながらぼーっとしていると、後ろから声をかけられた。

「ジーンズお探しですか?」

「えっ?」

振り向くと、黒髪で若い店員の男が笑っていた。

「あぁ…まぁ。」

また違う店員か。

名札には「志村」と書いてある。


「スキニー系ですか?それともダメージ系ですか?」

「えと…ダメージ系…。」


最近ジーンズ買ってないし、まぁいいか。





…と、なんやかんや流され試着室へ。

白いダメージのものと黄色いダメージのものの2着を試着することに。


「とりあえず白からっと…。」


俺はもたもたと履き替え始めた。

うん。

まあ、似合うっちゃ似合う。

でもちょーっと値段がな…。


「お客様、サイズの方、いかがですか?」


カーテン越しに、店員の声が聞こえたので、俺はカーテンを開けた。


「サイズはまぁいい感じなんですけど、あと少し安…」


え…。


カーテンを開けると、そこにはなんと憧れの坂田さんがいた。

固まった俺に気づいて、坂田さんは言った。


「すみません、只今志村は電話に出ておりまして…。代わりに私が担当させて頂きます。」

ニコリ。

「……ッッ!!」


爽やか過ぎるッッ!!

しかも、なんつー幸運!!


そんな俺に気づかずに、ジーンズについて意見を言い始めた。


「サイズはちょうどいいみたいですね。ラインもキレイで、上着に合ってますよ。あとは、黄色いダメージの方と比べられたらどうですか?」


「あ、は、はい。」


シャーっとカーテンを閉める。

………。


ウガァアーッッ!!

話しちゃったよ!!

笑顔向けられちゃったよ!!

カッコ良すぎんだろッッ!!


顔に熱が集まるのを感じながら、俺はジーンズを履き替えた。

でも次カーテンを開けたら、志村さんが戻って来てそうだな…。


シャー…。


しかし、カーテンの向こうには、相変わらず笑みを浮かべた坂田さんがいた。


良かった…。


「どう…ですかね?」


恐る恐る尋ねると、坂田さんは優しく答えた。


「先ほどのもいいですけど、こちらのジーンズもお似合いですよ。」

自分的には、よく分からないのでどちらでもいい。

「ただ…」


ただ?


「個人的な意見になりますと、私は黄色いダメージの方が好きですね。お客様のイメージにぴったりです。」


その言葉を聞いた瞬間、俺は決めた。


「これ、ください!!」


白いダメージのジーンズよりも、こちらのジーンズの方が、若干安いし。


「ありがとうございます!!では、丈の調整をさせて頂きますね。」


「……ッッ!!」


またあの笑顔。

ドキドキする俺をよそに、坂田さんはしゃがんで、丈の長さを調節し始めた。


変態だと思うかも知れないが、俺の足下の世話をする光景に、俺は妙な興奮を覚えた。


「これくらいでよろしいですか?」


ズキューンッッ!!


キタ!!

上目遣い!!


「は、はい。大丈夫です。」


ハイ、俺変態決定。

何でかって?


聞かなくても分かるよな?




……反応したんだよ。



少し。



――――…


「ありがとうございました。」


会計を済ませ、店を出ようとすると、ロンT売り場に戻った坂田さんが言った。


「またいらしてくださいね。」

うん、何度見ても爽やか。


「はい、ありがとうございました。」


ちょっと名残惜しいが、俺は再び足を進め始めた。


すると


「6回目のご来店、お待ちしております。」


え………?



振り向くと、坂田さんは少し照れたような顔で笑っていた。



END.



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