モコモコモコモコ…。

「嫌だ…。」

モコモコモコモコモコモコ…。

「嫌だ…。」

モコモコモコモコモコモコモコモコ…。

「嫌だーッッ!!」

ダンッ!!

「俺は絶対に羊飼いなんざにならねぇッッ!!」

古びたテーブルを叩き、親に向かって反抗している小柄な少年。

高杉晋助16歳。

今ここ高杉家では、羊飼いの後継ぎ会議が行われていた。

というより、言い争い。

「んーで俺が羊飼いなんざダッセーのにならなきゃいけねーんだよ!!クソじじぃッッ!!」

「うるっせクソガキ!!てめぇが継がねぇで誰が継ぐんだコラァ!!」

「知らねーよ!!もう一人ガキ作ればいいだろーがッッ!!」

「バカ言うな!!父さんだってなぁ、母さんがまだ生きてたら…うぅっ!!」

泣きじゃくる親父から目を反らして、下を向いた。

母さんは3年前に死んだ。

羊に蹴られて。

まさにえぇー!?だろ。

逆に笑えてくんだろ。

母さん殺した羊どもをなぜ飼い続けるんだよハゲ。

「母さんだってきっと…お前に継いでほしいと…思ってるだろうな…。」

いや、自分殺した羊の世話なんざ子どもにさせたくないだろフツー。

だが涙声の親父に言われ、俺はもう反抗できなくなった。

「…わーったよ。」



――――…


モコモコモコモコ…。

バカだ…。

モコモコモコモコモコモコ…。

バカだった…。

モコモコモコモコモコモコモコモコ…。

俺は何度親父のあの涙声に流されてしまったことかッッ!!

あーあ…。

辺り一面白い毛玉の群れ。

「どーすんだよコレ…。」

とりあえずコイツらを柵の中に戻さねーと。

俺は棒を持った手を広げて、柵の中に追い込もうとした。

だが…。

「メェェー。」

「あ、おいコラ!!」

逃げ回る羊が多発。

どーすりゃいいんだよッッ!!

「待てーッッ!!」

やっと追いつくと、見知らぬ少年についていく俺んちの羊が見えた。

「おいっ、お前ッッ!!」

俺の声に気づいた少年が振り返った。

歳は同じくらいだろうか。

こいつも羊飼いなのだろう、たくさんの羊を連れてる。

しかも銀髪頭で、死んだ魚のような目をしてやがる。

「何ですかー?」

声まで腑抜けてるしよ。

「何ですかー?じゃねぇよ。それ俺んちの羊!!」

少年は俺の顔と羊の顔を交互に見た後に口を開いた。

「イヤイヤ嘘は良くないよ君〜。これ、俺んちのだよね?だってコイツ、メリーだもん。俺が名付け親だもん。」

「いや、メリーって誰。メリーさんは飼い主の名前だっつーの!!」

「あ、俺メリーだから。よろしく。」

「ワケわかんねーんだよッッ!!もうめんどくせぇんだよッッ!!とにかく返せ!!」

「いやこれ俺んだから。」

「嘘こいてんじゃねー!!」

ぷぅ。

「屁もこくなッッ!!うわくっさ!!」

「もううるさいわね。そこまでゆうならくれてやるわよ。メリーをどこにでも連れてくがいいわ!!」

「だから元々俺んちのなんだよ!!しかもなんでオネエ言葉!!…ってオイッッ!!」

既にヤツは羊たちを連れて数メートル先を歩いていた。

「はぁ…俺も帰ろ…。」

なんとか羊たちを柵の中に入れて家に戻った。

親父は今日から飲み仲間と旅行だ。

家の中には俺ひとり。

適当に飯を食って風呂に入ろうとした時、玄関からノックの音がした。

「誰だよこんな時間に…。はいはーい。」

ガチャッ。

ドアを開けると…

「どーもー。」

メリーさんがいた。

ガチャンッ。

「え、なんで閉めるのー?」

「何の用だてめぇ。」

「お友達申請。」

「はぁ?」

「ちょ、肉挟んでる!!オネガイシマス開ケテクダサイ。」



――――…


坂田銀時17歳。

これがコイツの名前と年齢。

俺より1コ上には見えねー。

バカだし。

「で?何の用?」

とりあえずミルクを注いだカップを出す。

「あのさー、お願いがあんだよね。」

坂田はいきなり真面目な顔つきになった。

「だから何の。」

ひとくちミルクを飲み、俺を見て言った。

「俺んちの羊、もらってくれないか?」

「は?」

何を言ってるんだコイツ。

俺んちの羊攫ってこうとしてたクセに!!

「いや、俺んち親いなくてさ。俺、妹いるんだけど…今度から小学生になるんだ。このままじゃ学費もまともに払ってやれない。」

いきなりシリアスモードかよ。

「そんなとき田舎の親戚が妹を学校に行かせてくれるっていうんだよ。」

ここも田舎だろ。

「それは良かったじゃねーか。」

「ああ。だが、そこは店を出しててな。俺がそこの手伝いをしなきゃならないんだ。だからもう…あいつらを飼ってやることはできない。」

「はぁ。」

「で、そこで君にお願いだ。あいつらを一緒に飼ってはもらえないだろうか。」

は?

「頼む!!」

はいー!?

「いやいやいや、意味わかんねーから。なんで今日会ったばかりのお前にそんな頼まれ事しなきゃなんねーんだよ!!」

「頼むよ。じゃないと妹が…。俺の可愛い妹がぁあッッ!!」

坂田は頭を抱え込んで床に崩れ落ちた。

「ちょ、」

「虫がいいのは分かってる。だが、どうしても妹を学校へ行かせてやりたいんだ!!頼む!!頼むよ!!」

沈黙の中、時計の針の音が響いた。

「坂田…わかった。」

あまりに必死な坂田に、俺は拒否することができなかったのだ。



――――…


モコモコモコモコモコモコ…。

「最悪…。」

モコモコモコモコモコモコモコモコ…。

「最悪だ…。」

モコモコモコモコモコモコモコモコモコモコ…。

「騙されたーッッ!!」

あいつ妹の学校のために店の手伝いしなきゃなんねーとか言って…。

妹なんざいねーだろーがッッ!!

親父が坂田のこと知ってて、

「あそこの家は銀時って子どもだけだぞ。」

って言われたんだよ!!

しかも店で働くって、ホストじゃねーかッッ!!

テーブルの下にホストクラブのカード落ちてたんだよッッ!!

電話番号に蛍光ペンでチェックつけてあったんだよッッ!!

ちくしょー!!

どうすんだよこの羊の群れはーッッ!!

俺はどうやら涙に弱いらしい…。

「母さん…コイツら…捨てていい…?」

涙が静かに頬を伝った。



――――…


しかしなんやかんやで少年は立派な羊飼いになり、たくさんの羊のおかげで豊かな暮らしができるようになったとさ。

おしまい。



「イエーイ!!ホスト最高ー!!」

「てめっ坂田ァァァアッッ!!」



END.



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