おやこのおはなし

□あひるのおやこ
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かこん、ざばあーッ



洗面器のお湯でタケシの頭の泡を流す

小さな手で
ぷるぷる、顔を擦る



「よーし次は躯ッたいッ、タケシ」



しゅこ、しゃこ
真っ白い石鹸を泡立てる



「あわあわ!」
「おう、泡々たい」



風が躯より小さい風呂椅子に腰掛けると
タケシも風を真似てこども用の風呂椅子に腰掛ける



斜めに背中へタオルを掛け


がしゅ、がし
かしゅ、こし



風を真似てか

一丁前に足を開き
眉を寄せて躯を洗うタケシが愛らしい



「タケシは男前たいね」


優しい眼差しに
タケシは嬉しくなる


かし、かし、しゃわッ

つるんッ


「あわわァ…ッ!」


気合いを入れて後ろに倒れ込むのを


風の大きな掌が受けとめる


「痛いところはないか?」


風が常に気に掛ける言葉


「うん」


にこり、笑顔で
タオルを頭上に掲げる



「ありがとう」
「気を付けなかといかんたい」
「はいッ!」



ざば、ざはり
躯を流すと湯槽に入る

タケシが溺れない様に細心の注意を払って



「風くーんッ、ちょッといいかい?」
「は、はい…?!」



からり、浴室の戸を開けて
鈴木さんが顔を出す



「これね、こんなのあったらタケシ君が喜ぶかと思って」



それは黄色いアヒルの人形


「あひるーッ!」



タケシは興奮した様子で
何事か鈴木さんに礼を述べると


大きいアヒルを風に見せて
「ぎんにくらいだー」

小さいほうに「僕」と囁く



「そうだねぇ、親子みたいだねぇ」



鈴木さんは微笑むと
暖まるんだよ、と浴室を後にする



(親子か…。)




タケシから渡されたアヒルを動かしながら


躯より心が温まる




風はタケシの鼻の頭に汗を見つけると



「そろそろ上がらんとのぼせるたい」
「はい」




柔らかタオルの中

ほっこほこ、になった
タケシとアヒルの人形は


ひどく嬉しそうだった









おしまい



「寝巻の上ば下に入れんといかんばい」




ぱじゃまぱんついん

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