おやこのおはなし

□おまつり
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とんとんとん、
しゃんしゃんしゃん、




ちょこん、と
風さんの肩に乗ったタケシの前を

大きな山車がゆうるり通る


「おおッ!」
きらきら、感動するタケシ

風は幸せな気持ちになる



祭りを楽しんだのは

物心ついてから
初めてかも知れない


幼い頃から強くなる爲

そういった輩との喧嘩が
目的だった



「タケシ楽しかと?」
「うんッ!」



肩に乗せた小さな体温が
風さん頭に抱きつく



今はこの温もりに笑顔を、と
自分に執っての温もりを護る爲



こうして祭りにいる事が
こそばゆく、不思議で

そして暖かい






************


数時間前





「ねえ、風くん見て見て」

にこにこと嬉しそうな鈴木さんの周りを


「…おおッ!」


青い出目金の柄の甚平を着たタケシが
楽しそうに歩き回っている


「タケシ!男前になりよったなァー!」

タケシを持ち上げると
一層嬉しそうな顔をする


「きんにくらいだー、おまつりッ!」

「風くんも着替えなよ」


差し出されたのは
渋い茶の浴衣と濃い紺の帯



「お、俺は…、」
風さんは顔を紅くしてしまう

「ほら、いいからいいから」



礼を述べ
恐縮しきりな風さんに

「いいッて」を繰り返しながら

鈴木さんは帯を締めていく






「気を付けて行ッてくるんだよ」


「いってきまァーす」
「行ってきますたい」



**************




ひゃらり、お囃子の調べと
お祭りの匂い



鳥居をくぐると
白熱灯が色とりどり世界を照らす


「わあーッ!」


両手を握りしめるタケシに映る世界は

素晴らしい、ぴかぴか


りんご飴にあんず飴は
キレイに光って

ヨーヨー釣りにかき氷

ふわっふわ、わたあめ



「タケシ、なんば食べたか?なんの見たい?」


珍しく風さんも
歳相応にわくわくしてくる


うーん、と暫らく考えると

「きんにくらいだー!あれ!」



あんず飴の屋台では
氷の上、着飾って光る水飴


じゃんけんに勝てば2本



「タケシ頑張ッたい」




じゃーん、けーん、ぽんッ


「かッた!きんにくらいだー!」
「でかしたッたい」



屋台のお姉さんは笑うと

お父さんのほうが大喜びですね、

なんて云うから風さんは照れてしまう


「あ、いや…」



ふたりは
べたべた、になりながら

水飴と格闘する



「きんにくらいだーのあたまにこぼれちゃうよ…」

不安そうにタケシが云えば


「気にせんでよかたい」

髭に水飴をつけた風さんが答える



「たのしいね」
「ああ」



にこり、タケシの笑顔






***************




てこてこ、ととと

お祭りの中
駆け出すタケシ



「あッ…タケシッ!」
「きんにくらいだー!はやくー」



ちょこちょこ、
風さんを振り返りながら
手招き


小さなタケシと
大きな風さん



見失いそうで怖くなる



「きんにくらいだー!」


風さんが追い付くと
ぴょこん、飛び付いてくるのを抱き留める



「タケシ、俺から離れたらいかんばい」
「はい」



しばらく歩くと
喉が乾いたというタケシ


丁度通りがかった屋台で
レモン味のかき氷を選ぶ


縁台に腰掛けると
しゃく、しゃか、かり


氷をまぜる音


「はい」
風さんの口元に黄色の氷のかたまり


「…え」

流石の風さんでも
ちょっと怯む量の氷


「きんにくらいだーあげる」


ぱくり、口に入れると
頭がキィーンとする


横を見ればタケシも頭が痛いのか
くしゃり、と目を瞑っている


「うぅ…」
「大丈夫か?タケシ」


こくり、頷くだけのタケシの額に
ぴたり、大きな掌をあてる


「おおッ!あったかい」

きんにくらいだーぱわーッ



風さんも心の中で

タケシパワーッたい、と
呟いた







おしまい

帰り道

「きんにくらいだーのひげあめついてるッ」
「……ッ!」





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