東京魔人學園剣風帖外伝 双龍抄

□散華
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はらはら、と

桜の花弁が降りしきる中


『壬生、俺は………』


君が僕にくれた言葉


『お前の傍に、居るよ』


確かに、君はそう言った


優しく笑って
僕に、そう言ってくれた


『だから、そんな顔……泣きそうな顔、すんなよ』


けれど、あの時

抱き締めた僕の腕の中で
そう言いながら泣いたのは


君の方だった――



双龍抄―散華―




2000年、春――

「やぁ、いらっしゃい。」

見知った顔の訪問に骨董品屋の店主は、普段より幾分柔らかい表情を向けた。

「こんにちは、如月さん。頼んであった物を受け取りに来たんですが……」

店を訪れた黒尽くめの青年は、掛けていたサングラスを外しながら、直ぐに用件を切り出した。

「あぁ、用意してあるよ。ちょっと待っててくれ。」

如月が店の奥に引っ込むと入れ代わるように、派手なシャツの男が顔を出す。

「よぉ、壬生、久しぶりだな。元気だったか?」

「村雨さん、お久しぶりですね。日本へ戻られていたんですか?」

さして、驚いた顔を見せず壬生が静かに問い返す。

「あァ、ちょいと御門に呼び出されてな。ま、暫くの間、里帰りだ。」

「そうですか。」

「しかし、すっかり平穏な日常って奴だなァ。あの頃が嘘みてェだぜ、先生が東京に居た頃には……」

丁度、荷を手に戻った如月の目に、村雨の放った言葉で、微かに動揺を浮かべた壬生の表情が映った。

「村雨ッ!!」

如月が咎める様に背後から声を掛ける。

「おっと、と……不味かった、か。」

バツが悪そうに頭を掻いた村雨から、壬生はゆっくりと目線を下に落とした。

「……いえ、別に、気にしていませんよ。」

「……なぁ、壬生。本当に先せ――」

「村雨ッ!」

如月がぎろりと睨み付けると、村雨が肩を竦める。

「ほら、壬生。頼まれていた品だ。間違いないか一応中を改めてくれ。」

布に包まれた荷を如月から受け取った壬生は、手早く品物の確認を済ませた。

「確かに。それでは、そろそろ僕は、失礼します。」

「壬生、茶くらい飲んでいかないか?」

「折角ですが、まだ仕事が残っていますから……」

「そう、か。またいつでも寄ってくれよ。」

「またな、壬生。」

「…………では。」

丁寧に頭を下げた壬生が店から立ち去ると、残った二人は互いに顔を見合わせて深く溜息をついた。


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