東京魔人學園〜双龍之間
□妊娠協奏曲
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それは夕食の片付けが終り二人がそれぞれ寛いでいる時だった。
「……え?今なんて言ったんだい?」
壬生は読んでいた文庫本から目を離した。
「だから…出来ちゃったみたいなんだよね。」
「出来たって何が?」
「だから子供が。」
思いもかけない龍麻の言葉に壬生の身体が固まった。
一瞬、頭の中が真っ白になったが手から床に滑り落ちた本の音に我に返る。
「…何を言ってるんだ。男なのに子供が出来る訳ないだろう?」
努めて冷静に切り返したつもりだったが、壬生の声は少々裏返ってしまった。
さすがに動揺の色を隠せなかったらしい。
「実は…そうじゃなかったみたいなんだ。」
神妙な顔つきで考え込んでいる龍麻にふざけている様子は見られない。
確かに世の中には身体的に両性具有の人間が存在しているのは知っている。
只でさえ緋勇龍麻は絶対無敵の黄龍サマだ。
現実的に有り得ない話ではないかもしれない。
「確か…なのかい?」
「うん、ちゃんと病院で診て貰ったから…間違いない…と思う。」
実際に龍麻の身体が女性であるというなら、妊娠は不思議な事ではない。
卒業後、一緒に暮らし始めてから壬生は龍麻に対してそのような行為を何度も繰り返してきたのだから。
『そういえば…昨夜も激しくしてしまったけれど、大丈夫だったかな。』
こんな非常識な事態をあっさりと受け入れてしまった壬生は、生真面目に龍麻の身体を心配し始めた。
「とにかく、子供が出来たというのはお目出たい事なんだし、これからの事も考えなきゃいけないね。」
「それがさぁ…全然よくないんだよ。」
龍麻が眉間にシワを寄せながら溜息をつく。
「参ったよな…。」
そんな浮かない表情の龍麻に壬生は酷く狼狽した。
壬生は今までずっと他人に関わらない様にしてきた。だから自分が将来、普通に家庭を持つ姿など想像もしなかったし…ましてや子供など考えた事も無い。
だが、龍麻が妊娠―と聞いた途端に壬生の中に嬉しさの様な感情が広った。
本当は、そんな温かさに憧れていたのかもしれない。
そんな壬生の想いとは反対に龍麻は困っている。
『もしかして…龍麻の方は嫌なのかな…?』
そんな不安をグルグル考え始めた壬生に、予想もしなかった台詞が飛び出した。
「…父親が誰だか、分からないんだ。」
龍麻のその言葉に壬生は一瞬、気を失った……。