東京魔人學園〜陽之間

□願い
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青葉の芽吹く香りを乗せた優しい風が、オープンカフェで待ち合わせをする葵の髪を揺らしていた。

「ごめ〜ん。葵」

息をはずませ走って来た小蒔に彼女はにこやかに応える。

「遅くなっちゃった。」

「久しぶりね。夜勤明けに呼び出してごめんなさい。大丈夫なの?」

「うん。平気。…えっとアイスコーヒーお願いします。」

お冷やを口にして一息つくと、小蒔はやっと落ち着いて葵に笑いかけた。

卒業してもう8年。

葵は大学を出て母校の真神学園で教師をしている。
顔立ちが少しシャープになり、大人っぽくなってはいるが、学生時分とあまり変わっていない。

小蒔もお化粧が板につき、ぐっと色っぽくなったが、屈託のない笑顔は昔のままだ。
婦人警官として、日夜この街の治安を守っている。

時々こうして逢うふたりは、互いの近況を報告した後、ショッピングや食事を楽しむ。


「で、葵…龍麻くんとはどう?」

「時々逢うわよ。…相変わらず忙しそうだけど…」

葵の瞳(め)が、ひときわ優しく語る。

「それで?」

「なに?」

「何?じゃないわよ。葵…つきあってるんでしょ。そろそろ結婚とかって話しになんないの?」

鋭い小蒔の突っ込みに、葵は穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと紅茶を口にしている。

「ないわよ。そんな話し…そう言う小蒔はどうなの?醍醐くんとは…」

「どうなんだか?」

アイスコーヒーの入ったグラスをストローでクルクル回しながら、小蒔は肩をすくめて笑った。

「葵が一番にお嫁さんになると思ってたのになぁ…」

「一番はミサちゃんだったわね。」

微笑む葵の脳裏にみんなの姿が浮かぶ。

「…さすがにね〜次々と同僚が寿退職しちゃうと意識しちゃうなぁ〜。…葵は考えたりしないの?」

「さぁ…どうかしら?」
葵が意味深に微笑む。

「龍麻じゃなきゃ…少しは焦ってたのかな?」
ひどく他人事のように答えて葵は笑った。

「……」

「彼は今でも闘ってる。…だから彼の鎖にはなりたくない。」

「…でも、彼の帰る場所でありたいと想っているけど…ね。」

優しい葵の微笑みが、凛とした強いモノに変化していた。

「…葵らしいけど…なんだか複雑…ボクとしては上手くいってほしいんだけどなぁ〜」

苦笑する小蒔の表情に、葵がクスクスと声をあげて笑った。

「ありがとう小蒔…でも、こればっかりは縁だからね…」
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