秘宝〜展示之間

□永遠への祈り
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永遠への祈り

「紅葉」
「うん?」
「退屈なんだけど」
「うん」
「うん、て…お前聞いてないだろ」
「うん」
………………………………。
紅葉の家に来て2時間。
その間の会話は無いに等しい。
何を言っても「うん」しか言わない紅葉は布きれにかかりっきりだ。
布に嫉妬しても意味無いのはわかってるけど…。
「…………」
「龍麻」
「お昼、食べようか?」
「え?あ、うん」
突然紅葉が普通に声をかけるから変な声が出てしまった。
時計を見ると12時を過ぎたところ。
紅葉はさっさと今まで広げていた裁縫道具を片づけてキッチンに向かっている。
「急にどうしたんだよ。もう、いいのか?」
「龍麻が今にも暴れ出しそうだったからね」
「暴れない!」
叫びそうにはなったけど。
「それに………」
「それに?」
手にした包丁をわざわざ置いて紅葉が傍に来る。
紅葉の方を見れば機嫌の良さそうな顔が近くにあった。
こつ、と額がぶつかった。
「それに、目の前に龍麻がいるのに布ばかり見てても僕も虚しいし。ごめんね、ちょっとキリが悪かったんだ」
「……近すぎ」
「でも、これくらい近くないと」
「ん」
「キスできないし、ね」
軽い触れるだけのキス。
俺が固まってる間にまた紅葉はキッチンに戻る。
「…恥ずかしい奴」
これで機嫌が直る俺も単純だ。
緩んだ口元が元に戻らない。

「なー何をあんなに一生懸命作ってたんだ?」
食事を済ませてからは紅葉も俺の相手をしてくれた。
「見るかい?」
「うん」
「気にはなるんだね」
「そりゃ、紅葉が一生懸命になってるものだから」
「ありがとう」
「恥ずかしいって」
表情も崩さないで言われるとこっちの方が照れてしまう。
というか崩すつもりが崩されてしまった。
「…クマ…えっとテディベア、だっけ?」
「そう」
紅葉が持ってきたのは2つのテディベアだった。
「こっちの方が少し大きい」
「そう、こっちの大きい方が僕で、小さい方が君だよ」
…………………は?
「えーっと…どういう意味?」
「僕が今作ってるのはウエディングベアだよ、龍麻」
ゴチンッ
「た、龍麻!?」
「…痛い」
「テーブルに頭をぶつけたら誰でも痛いよ」
顔が熱くてあげられない。「嫌、だった?」
窺うような紅葉の声に愛しさがこみ上げる。
頭をテーブルの上に乗せたまま紅葉を見た。
視界に入った紅葉の手にそっと触れると握りかえされ、驚く。
「紅葉の手、冷たい」
「緊張したんだよ」
「あれだけサラリと表情も変えずに言っといて?」
「それでも、緊張したんだよ」
「そっか…」
互いの指を絡めるように握る。
ゆっくりと体を起こして、俺は紅葉にそっとキスをした。
ビックリしたような紅葉に笑いかけると紅葉も優しく笑む。
「ありがと紅葉、大好きだよ」
そして、今日3度目のキスを交わした。
互いのこの気持ちが永遠であるようにと、祈りながら…。




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