秘宝〜展示之間

□月夜
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月が姿を現す静かな夜に俺はあの人を思い出す。

月が姿を現すざわめく夜に俺はあいつを思い出す。

「いい度胸だな、緋勇」

月明りに照らされた旧校舎から一歩外に出ると、正面に…あの人がいた。

「犬神先生…」

「俺は旧校舎に近づくなと言ったはずだ」

「でも、先生は俺が一人で潜った時にしか姿を現さない」

「お前しかいないからだ」

「…そんなに、俺が心配?」

「…………」

「沈黙は肯定だよ犬神先生」

「緋勇」

「龍麻だよ。センセ」

「……」

「俺は、龍麻だ」

「知っている」

「でも先生は、俺の中の誰かを見てる」

「そんなことはない」

「そんなことある。気付いてないなら…尚更悪い」

「…あいつは、お前みたいに俺に何かを求めようとはしなかった」

「俺、うるさいかな」

「そういう意味ではない…」

「じゃあ…」

「うるさいなら塞げばいい」

「えっ……っん」

「…お前限定だがな」

「っ…やっぱりうるさいんじゃないか」

「フッ、そうだな。龍麻、お前はうるさくていい」

「なっ…ばかやろ…」




月が姿を現す静かな夜に俺はこの人を思い出す。

月が姿を現すざわめく夜に俺はこいつを思い出す。

あぁ、けれど今は…何てざわめく夜だろう。

あぁ、だが今は…とても静かな夜だな。






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