九龍文庫之間

□黄龍妖魔學園紀
2ページ/4ページ


「……ラベンダー、」

「えッ!?」

「かな…?この香りは。」

龍麻の艶やかな黒髪に顔を埋めた壬生は、探るようにその匂いを嗅いだ。

「これは、同じクラスの奴の…」

「仲が、いいんだ?」

「別に、普通だよ。」

「そんなに匂いが移るくらい、いつも一緒に居るみたいなのに?」

「友達だから。」

「……昔、君の隣にいつも居た、同級生の彼を思い出させるね。」

「京一の事か?」

壬生とは違う意味で、龍麻にとって特別な存在である蓬莱寺京一。

「もしかして似てる?」

人というのは不思議なもので、自分の身近の親しい人物に似ているというだけで、情が湧いたり気になり始めたりする。

「え?……うーん、いや、似てないよ、全然。」

「そう……」

龍麻の言葉に、壬生はほっと胸を撫で下ろした。

「あァ、どっちかっていうと……紅葉に似てるな。」

「!!」

予想に反した龍麻の一言に壬生は驚きの表情を見せた。

「うん、似てる。自分の事あまり話さなくて他人に関わらないトコとか。」

「それは………」

「紅葉?」

眉間に皺を寄せて壬生は考え込み始めた。

「……大変だ。」

「何が?」

龍麻の方は訳が分からないといった表情で首を捻っている。

「龍麻。本当は今日、僕はね、一度だけ君の顔を見たら、此処へはもう来ないつもりだったんだ。」

「………うん。」

「君にはこの學園でやるべき事があるんだろうし、僕のせいで君に迷惑を掛けてしまうのも嫌だ。どんなに会いたくても、これきりで我慢しようと思っていたんだ。」

「紅葉……そんな事は、」

ない、と言おうとした龍麻より先に壬生は強い口調できっぱりと言った。

「でも、前言撤回だよ。」

「……は!?」

「時々、様子を見に来ないと心配みたいだからね。」

迷いを振り切ったように、壬生はにっこりと笑った。

「あのさ、いや、来るのは別に構わないんだけど、心配って、一体何なんだよ。」

「君の中の僕の地位は、誰にも譲れないからね。」

「……だから、何の事だ?」

壬生の真意を読み取れない龍麻は困惑顔で見つめ返した。
それには答えず、壬生は龍麻にキスをした。触れるだけの口付けが深くなり、壬生の手が龍麻の制服のボタンを外していく。

その時―――

不意に机の上の携帯から着信音が鳴り響いた。


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ