九龍文庫之間
□黄龍妖魔學園紀
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「……ラベンダー、」
「えッ!?」
「かな…?この香りは。」
龍麻の艶やかな黒髪に顔を埋めた壬生は、探るようにその匂いを嗅いだ。
「これは、同じクラスの奴の…」
「仲が、いいんだ?」
「別に、普通だよ。」
「そんなに匂いが移るくらい、いつも一緒に居るみたいなのに?」
「友達だから。」
「……昔、君の隣にいつも居た、同級生の彼を思い出させるね。」
「京一の事か?」
壬生とは違う意味で、龍麻にとって特別な存在である蓬莱寺京一。
「もしかして似てる?」
人というのは不思議なもので、自分の身近の親しい人物に似ているというだけで、情が湧いたり気になり始めたりする。
「え?……うーん、いや、似てないよ、全然。」
「そう……」
龍麻の言葉に、壬生はほっと胸を撫で下ろした。
「あァ、どっちかっていうと……紅葉に似てるな。」
「!!」
予想に反した龍麻の一言に壬生は驚きの表情を見せた。
「うん、似てる。自分の事あまり話さなくて他人に関わらないトコとか。」
「それは………」
「紅葉?」
眉間に皺を寄せて壬生は考え込み始めた。
「……大変だ。」
「何が?」
龍麻の方は訳が分からないといった表情で首を捻っている。
「龍麻。本当は今日、僕はね、一度だけ君の顔を見たら、此処へはもう来ないつもりだったんだ。」
「………うん。」
「君にはこの學園でやるべき事があるんだろうし、僕のせいで君に迷惑を掛けてしまうのも嫌だ。どんなに会いたくても、これきりで我慢しようと思っていたんだ。」
「紅葉……そんな事は、」
ない、と言おうとした龍麻より先に壬生は強い口調できっぱりと言った。
「でも、前言撤回だよ。」
「……は!?」
「時々、様子を見に来ないと心配みたいだからね。」
迷いを振り切ったように、壬生はにっこりと笑った。
「あのさ、いや、来るのは別に構わないんだけど、心配って、一体何なんだよ。」
「君の中の僕の地位は、誰にも譲れないからね。」
「……だから、何の事だ?」
壬生の真意を読み取れない龍麻は困惑顔で見つめ返した。
それには答えず、壬生は龍麻にキスをした。触れるだけの口付けが深くなり、壬生の手が龍麻の制服のボタンを外していく。
その時―――
不意に机の上の携帯から着信音が鳴り響いた。