東京魔人學園剣風帖外伝 双龍抄

□散華
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「壬生の奴、先生の事…まだ引き摺ってんだなァ。」

居間の机の前で胡坐を掻く村雨がぼそりと呟いた。

「無理もないだろう。」

向かい合わせに座る如月が茶を入れた湯呑みを村雨に差出しながら答える。

「しかし、よ……」

目の前に置かれた茶を手に取り村雨は一口含んだ。

「本当に先生がそんな真似したってのか?」

「………事実だ。」

「あの先生が……俄かには信じられねェな。」

「それでも、事実だ。」

「一度、差し伸べた手を振りほどくなんざ、先生にもよっぽどの事があったのかもしれねェ、が……」

「………あァ。」

「壬生の奴、辛そうな顔をしてやがったな……」

「……………」

「……何処に、行っちまったんだろうなぁ。」

「………誰も、」

「あ?」

「彼を引き留める事が出来る者は、誰も居なかったのかもしれない………」

壬生同様に大切なものを失った顔で如月は呟いた。

「……ッたく、本当に先生は、罪な男だぜ……」

深く息をついた村雨は自分もまた、同じ顔をしているのだろう、と、思いながら残りの茶をぐいっと一気に飲み干した。


店を出た壬生は、この季節には嫌でも必ず目に入る桜の樹を、ぼんやりと眺めながら歩いていた。


はらはら、と

あの日と同じように花弁が舞い落ちる


『龍麻……どうして、泣いてるの?』

『……泣いて、ないよ』

『泣いてるよ……君は、泣いてる……』


はらはら、と

君の頬を伝い落ちる涙の粒を、僕の指が掬い取った


『………桜、が』

『え?』

『あんまり綺麗だから』

『………………』

『だから……』

『うん………』


濡れた睫毛に口付けて

君が泣いた、本当の理由をそれ以上問う事はなく

僕は、ただ

強く強く君を抱き締めた


『壬生、俺は………』


腕の中に確かに感じる君の体温だけで、

それだけで良かった


『お前の傍に、居るよ』


あの時、僕に
そう言ってくれた君は

もう、居ないけれど


落ちる花弁が涙のように

はらはら、と……
はらはら、と……

ずっと僕の上に降り続ける


はらはら、と―――












To be next continued…


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