真神学園の昼休み、京一と龍麻の二人はいつもの様に屋上で昼食を取っていた。
「美里さんって、凄いよね……」
手に持ったいちご牛乳のストローから口を離した龍麻が、不意にぼそりと呟いた。
「あァ?」
噛り付いた焼そばパンを飲み込みながら、京一は隣に並ぶ相棒の顔を覗き込む。
「凄いって、何が?」
「闘う事に恐れが無いから。」
「へッ、世間知らずのお嬢様だからな。単に怖いもの知らずなだけだろ。」
「そうかな?きっと心が強いからじゃないかな。」
「心、ねェ……」
京一は紙パックのコーヒー牛乳にそのまま口を付けると、ズズッと啜った。
「京一だって、本当は分かってるくせに……」
「そんなモン俺が知るかよ。」
どちらかと言えば女の子には甘い性質の京一が、美里の事になると途端に不機嫌になる。
「素直じゃないね。」
少しからかいを含んだ表情のまま龍麻はクスクスと笑った。
「うるせェよ!あのなァ、いくら心が強いっても、戦力になんなきゃ話にならねェんだよ。」
「あ、そうか。」
「だろ?」
「心配だもんね。」
「ぶほッ!げほッ!ごほッ!」
龍麻の一言に、京一は飲み込みかけた液体を思い切り吹き出した。
「優しいよね、京一は。コーヒー牛乳を鼻から出してる姿は格好悪いけど。」
「か、勝手に納得してんじゃねェよ!それになァ、格好悪いは余計だっつーの!」
「あはは、ごめん。ごめん。」
「……ったくよォ。」
呑気に笑う龍麻に脱力しながら京一は空になった紙パックを足元のビニール袋に投げ入れた。
「………ねぇ、京一。」
「何だよ?」
「もし、自分の存在と引き替えに世界を救えるとしたら、美里さんはどうするかな?」
「また美里かよ。いい加減――」
「真面目な話だよ。」
仏頂面で睨み付ける京一を龍麻は真剣な瞳で見つめ返した。
「………アイツは、自分を犠牲にしても救おうとするだろうな。」
「うん、きっとそうだね。」
「けどよ、龍麻。俺はそんなのは真っ平御免だぜ。」
「………………………」
「最後は、心から笑えなきゃ意味ねェんだからな。」
「………うん。笑うのは、みんな一緒に、だね。」
「一緒に、とは言ってねェ。」
「素直じゃないね。」
「うるせェ。」
プイとそっぽを向く京一に龍麻は嬉しそうな笑顔を見せた。
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まだ美里に冷たい頃の京一。
けれど龍麻だけはちゃんと理由を分かっていましたね(紅月)