氷ノプライド+゚終章

□ファースト・キス
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「………なにいってんの」


ふわふわしていた意識が、冷水を浴びせられたようにはっきりしてくる。


景吾が言った言葉が解らなかった。
意味が理解できなかった。


「お前がずっと好きだった」




「…そんなの信じられるわけないじゃん。いつも、あたしのこと女に見えないとか、好きになるわけないとか言っといて…生徒会室で、何かしていた子が彼女なんじゃないの?」


「あんな女、ただの憂さ晴らしだった。本当に女と思ってなかったら、無理矢理マネージャーにしてまで側に置くかよ」

香月が黙る。
跡部は、香月を真っ直ぐ見たまま続ける。


「誰にもお前をとられたくなくてマネージャーにしたんだ。…本当は…ずっとお前が好きだった」


「そんなこと言われても困るよ!!」


跡部の手を振りほどいて香月は睨み付ける。
飲みすぎでまた目眩がした。


「あたし周助と付き合ってるんだよ!?今更そんなこと言われても、何も答えられない!!」


「だったらなんで…不二と付き合ってんだよ…!!」


呻くように、苦しそうに、跡部が香月に言い返した。


「お前本当に不二が好きなのか?お前が好きなのは俺じゃねぇのかよ…!」


「周助が好きだよ!当たり前じゃない!景吾を好きだった時期なんてもう終わっちゃったんだよ!だからもうこの話は終わり!侑士んち戻ろう!だいぶ酔いが醒めてきたから…」


後ろから抱きしめられて、景吾の香りがすぐ近くにした。


「勝手に終わらせてんじゃねぇよ…俺は、絶対にお前を諦めない…諦められるわけない

「…っ」


「もし本当にお前が俺を好きでなくなったとしても…もう一度好きにさせてやる。お前を不二から取り戻す」


「好きになんてなるわけないよ…あたしは、周助が好きなんだから…」



なんで涙が出るかわからなかった。
胸が痛い理由もわからなかった。


「好きだ…香月」


「離して…」


「ずっとお前に言いたかった…」


「離してよ…景吾…」


抱きしめられていると、景吾の悲しい気持ちが伝わってくるようで…涙が止まらない。


なんで…今更そんなこと言うのよ…



「もうアイツのところになんか行くな。俺の側にいろ」


「あたしは…景吾を好きじゃない…っ」

「本当にそうか確かめさせろよ…」


「―!?」


景吾に顎を持ち上げられ…


「やめ!…ン」


無理矢理口を塞がれる。身体に電流が走ったみたいだった。

思っていたよりずっと、優しいキスだった…。




「……いつまで泣いてんだよ」


「やめてったら…」

「だったら認めろよ。俺が好きだってな…」



「だから…無理だって言ってるじゃん…あたしは…景吾と付き合えないよ…」


「……」


景吾に強く抱きしめられた。抱きしめる手は震えていた。



温かくて、悲しくて、イタクテ…




何も言えなかった。涙はいつまでも流れて止まらなかった。

ただ、景吾に、こんな形で告白されるなんて思わなかった。


裏切れない。
裏切れないよ周助。あなたは、本当に傷ついていた時、あたしが誰でもいいから側にいてほしいと思った時、あたしと一緒にいてくれた。


傷ついた理由は景吾なんだよ?アンタが、あんな風にあたしを傷つけたから、だからこうなったんだよ?




……付き合えないよ


「……景吾の気持ちはわかったから…とにかく今日は家に帰らせて。体調が悪い…」



「……ああ」


あたしを支えたまま、景吾は誰かに電話をかけた。
多分、送ってくれるつもりなんだろう。

懐かしい、景吾の車が私達のすぐ横に停まる。


景吾に乗せられて、あたしの家の住所を景吾が告げてから…肩を抱き寄せられた。


「今までずっとお前を傷つけて悪かったな」


景吾は、それしか車では言わなかった。あたしはその言葉に対して何も答えられなかった。涙はいつまでも流れていた。黙って、景吾に寄り添って窓の外を見ていた。



…あたしはどうすればいいの?


「送ってくれてありがとう」


「ああ。…じゃあ、…またな」


少し景吾も悲しそうな顔をしていた。
頭がガンガンする。しばらく学校休んじゃおうか。景吾に会いたくない。ああ、だけど景吾はお見舞いにきてしまうかもしれない。今は会いたくない。どうすればいいか分からない。どうしよう、どうしよう…



『……もしもし』




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