氷ノプライド+゚終章
□消えない傷
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「―しかし跡部が女の子を連れて来るとはね。俺てっきり跡部は女嫌いだと思ってたから驚いたよ」
「世間話はそれくらいにして、アイツをどうするか教えてもらえますか」
西宮は相変わらず怖いなぁ〜と、軽口を叩いてから
「そりゃ、もちろん全員一致で榊さんにマネージャーをお願いするよ。ていうか、跡部は知らないかもしれないけど、菅野が辞めちゃったんだよねー」
「ああ。そういえば後半いませんでしたね」
「別に仕事してたわけでもないし、辞めたことについては気にしてないけどさ…アイツは、ヤバイよ」
「香月に何かしてくるかもしれませんね。心配しないで下さい。俺がアイツを守りますよ」
香月を連れてきたことで、あの女が香月に何かするのは予想していた。忍足には一応言ってあるから、今日は大丈夫だろう。
「カッコイイな!…ぶっちゃけた話、あの子は跡部の彼女なの?」
「…そろそろ迎えが来るので失礼します。いくぞ、樺地」
「ウス」
「あはは、おつかれー」
生意気な後輩を見送り、西宮も部室に戻る。
「あーあ。はぐらかされちゃったなー結局どっちなんだろ。跡部が気に入ってるのは間違いないみたいだけどね」
(あといつも気になってるけど、あの中等部の男子はどこから現れるんだろう。)
「おい、香月はどうした」
「なんか急用思い出したとか言って走っていったぜ」
岳人がアイスをかじりながら言う。
「なんだと…!」
「そんなに驚くことないだろ。急に部活に連れてきたんだから」
呆れる宍戸を無視し、跡部は携帯を取り出した。
「おい、無事か!!」
『景吾…?いきなりどうしたの?』
「お前今どこにいるんだ!!」
『電車の中だけど…』
跡部の焦りように香月は不思議に思った。少し跡部がため息をついたようだった。
『いいか。暗くならないうちに帰ってこいよ。駅に着いたら迎えをやるから俺に連絡しろ。いいな』
「なんで景吾に連絡しなきゃなんないのよ。保護者じゃあるまいし…あっ、ちょ…」
仁王が電源ボタンを押して、あたしに携帯を差し出した。
「電車の中で通話は禁止じゃろ」
「わ、分かってるけど…」
「降りるぞ」
仁王に促され、降りた駅はやっぱり立海の最寄り駅だった。
「行くのって学校?」
「ついてくれば分かる」
「ほんとどこいくのよ」
「ついてくれば分かる…着いたぞ」
「ここ…?」
香月は建物を見て驚いた。
来たことないけど…もしかして、これって仁王の家?
「俺んちじゃ」
「…そうなんだ」
「どうした。何か話があるんじゃろ」
「う、うん。じゃあ…ちょっとだけ上がるね」
仁王が鍵を開けて、中に入っていく。
外観もそれほど大きいわけじゃないけど、屋根が四角くて、なんだかオシャレな造りだ。
玄関に入ってもうちと違って綺麗だった。
「誰もいないの?」
「お手伝いさんでもいると思ったか?」
「そうじゃなくて、家の人誰もいないんだなー…って」
「嫌なら帰るか?」
「!帰らないよ!」
意地悪そうに笑った仁王に、二階に案内されて、部屋に入る。少し男モノの香水の匂いがした。
「何か飲み物持ってくるから、適当に座ってていいぜよ」
「ありがとう…」
香月は部屋に取り残されたので、なんとなく仁王の部屋を見回した。
部屋の隅にCDが積み上げられていて、ギターとかもある。男の子の部屋だ。
ベッドとテレビが奥にあって、低いテーブルが部屋の真ん中にある。
ブランドものっぽいアクセサリーがいくつか飾られてるし、部屋はそれなりに綺麗。
仁王らしいと言えば、仁王らしい部屋だ。
「炭酸でいいか?」
「なんでもいいって」
仁王がドア寄りに座ったので、あたしがテーブルを挟んで向かいに腰を下ろした。仁王がタブを開けて、飲み物を二、三口飲む。
「―それで?話ってなんじゃ」
「あー…そのことなんだけど…」
「なんじゃ」
「実は大したことじゃないっていうか、酔った勢いっていうか…仁王にわざわざ言わなくてもいいのかなぁ〜って気が…」
「跡部に告白でもされたか」
「うん。そうなんだけど…」
なんでわかるんだろう?やっぱりいろんな経験積んでるからなのかなぁ…
「で。不二と付き合ってるから付き合えないって跡部を振って、跡部が諦めないとか言ってるんじゃろ」
「なんでそこまで分かるの!?」
「今日のメール見たらこれくらい分かるじゃろ」
そうなのかなぁ…
あのメールだけで分かるのかなぁ…
香月はベッドに寄りかかり、ため息をついた。
「不二と別れるんか。香月は」
「…別れられないよ。周助は、あたしが一番辛いときに側にいてくれた。支えてくれたのに…跡部に告白されたから別れようなんて、そんなこと言えるわけないよ」
「跡部と付き合いたいのに、不二が邪魔なんじゃろ」
「邪魔とかそんな風に言わないでよ!!…もしかしたら、景吾のこと、まだ好きなのかもしれないけど、あたしは周助を裏切りたくないよ。だから、どうしたら景吾と幼なじみに戻れるんだろうって…」
「裏切れないとか幼なじみに戻るとか面倒くさいのぅ。そんなお情けで付き合ってもらっても、不二も嬉しくないと思うが」
「お情けじゃないってば…」
「まあ、俺にはどっちでもいいけどな。…一つだけ、不二と穏便に別れられる方法があるぞ」
「…なにそれ」
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