氷ノプライド+゚終章

□秘密と約束
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秘密と約束


誰かが追いかけてくる。


誰?


「待てって言ってんだろ!!」



―景吾!?


腕を捕まれ、睨み付ける景吾と目が会う。


―まるで映画のシーンを見ているようだった。


どうしてあの時景吾から逃げたりしたんだろう。ずっと仲直りしたかったはずだったのに。


あたしは…景吾が好きなくせに周助に告白され、そのまま景吾のことを諦めて周助に逃げてしまった。



…逃げたんだ。あたしは


―あいつはあの時、どんな顔をしてたっけ?


「気がついたみたいね」


ぼんやり意識が覚醒していく中、香月は目を開ける。


赤いヒールを履いた脚が交差していて、ゆっくり上に視界を持って行く。


少し短すぎるショートパンツ、キャミソールから見える谷間を越え、赤色の濃い口紅を塗った女性の顔には、どこかで見たことがある気がした。


「!!管野さん…!?」


「やっと気がついてくれた?ひどいじゃない、元先輩なのに」


タバコをくわえてポケットに手を入れ


「まあ、アンタのせいで退部したんだけどね」


管野がタバコに火をつけた。
香月はゆっくり体を起こした。


「どういうつもり?あたしに何か用なの…?」


「ん〜?用ならもう終わったけど?ほら、可愛く撮れてるでしょ?」



「…っ!?」


デジカメに写されたものを見て、香月は蒼白した。
そして、改めて体を見て混乱する。
ボタン掛けのシャツがビリビリに破られていた。
下着はつけているものの、後ろの止め金が外れている。



…なに……これ…


「榊ちゃんの乱れてる写真、いっぱいカメラに撮っちゃった♪彼上手だったでしょう?寝てたしわかんないか!」

「嘘…あたしに何、したの…」


「覚えてないならもっかいやっとく?」


管野の横にいた上半身裸の男が、香月の肩を抱き寄せ、首筋に唇を這わせる。


「やだ!!」


香月が男を突き飛ばす。
男はニヤニヤしながら「残念」と呟いた。


「この写真ばらまかれたくなかったらさ、跡部と部長にちょっかい出すのやめなさいよね。あれは、あたしのものなんだから」


「景吾はアンタのものじゃない!!」


フゥとタバコの煙をかけられ、香月は咳き込んだ。
管野の顔が醜く歪む。


「うぜぇんだよ!あたしの忠告守れなかったら、今度は起きてる時に地獄を見ることになるわよ。…じゃあ、気をつけて帰ってねV」


清々しい笑みを浮かべ、管野と男が去っていく。
香月はしばらく放心していた。




「…どうして」



―…


「景吾坊っちゃま。今日は香月様のご自宅を通るルートでよろしいですね」

「ああ。頼む」


跡部は車に乗り、窓の外を見た。
今日は香月と登校する約束をしていた。


何を隠しているにしろ、香月に会いたかった。


昨日は不二と会ったのだろうか。
部長から、日曜はどうしても外せない用事があるんだと香月が言っていたことを聞いた。
そんなに不二が好きなのか。
今アイツの心はどこにあるのか。
香月の瞳の中をいくら覗いても、答えらしい答えは見つからなかった。


「おい。迎えにきてやったぜ」


チャイムを鳴らし、ドアが開くのを待つ。


暗い表情で出てきた香月に少し驚きながら、跡部は口元を上げた。


「朝から辛気くせー顔してんじゃねぇよ。行くぞ」


「…うん」


香月は暗い顔のまま、頷いて車内に入る。


しばらく外の風景を眺めていたが、どうしても香月の様子が気になり


「どうせお前、青学の応援にでも行ってたんだろう。何があったか知らないが、俺様といる時くらい楽しそうにしてろよ」



「…ごめん」


「なんで謝るんだよ」


香月の頭を、軽く叩いてやった。
小学校の時から、コイツは落ち込んだ時に頭を叩いてやると、怒って反撃してきたからだ。


しかし、香月の目からは涙が流れだした。



「ごめん…なんでもない…」



「…なんでもないなんてことないだろう。何があった」


「言えない…」


「だったら俺に何かできることがあるなら、言えよ」



「…肩借りていい?」


「いいぜ」


香月が肩に頭を乗せてきて…


涙を流しながら、少しだけ笑った。


「ありがとう景吾」


「…大したことしてねぇだろ」


「学校着くまで、肩、貸しといて」


「好きに使えよ」


香月は目を閉じて、何も言わなくなった。



…温かい。


香月の目から涙が伝う。



景吾に触れてると、落ち着く。


どうして最初から素直に景吾に告白しておかなかったんだろう。


そうすれば仁王のことも、管野にあんなことされることも、なかったのに。


「ここでいいよ」


香月は正門に入る手前の道で車を降りた。跡部も続いて降りてくる。


「景吾はまだ乗ってなよ!」


「何一人で行こうとしてんだよ。手荷物持ってやるから貸せよ」


「ちょっと…」


勝手に取り上げられ、奪い返そうと伸ばした手を掴まれる。景吾に無理矢理手を繋がれた。


「お前、俺のこと好きだろ」


「!!バカじゃないのっ」


「誤魔化しきれてねーんだよ。…いい加減、早く俺様のものになっちまえ」


強く手を握られ、恥ずかしさと喜びで顔が熱くなる。


校門に入っても離してくれないから、みんながすごく見てて、無理矢理振りほどこうともした。


「あーあ。仲が本当にいいのねぇ」


ようやく景吾が手を離す。


振り向いて、そいつを見て、凍りついた。


「何の用だ。俺達はお前に用はない」


「そんな冷たいこと言わなくていいんじゃない?私、ちょっと跡部君にお話があって★」


「俺はない。行くぞ香月」




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