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□大事な日
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大事な日 ((銀土



※銀誕











土方と、喧嘩をした。いや、喧嘩とは言えないのかもしれない。
俺があいつに酷いことを言っただけだ。

けれど、今回は土方だって悪いと思う。明日が俺の誕生日だと知りながら、ずっと前からしていた明日は一緒に居ようという約束を、また破ろうとしたんだ。
女々しいのかもしれない。土方にとっては阿保らしいかもしれない。
それでも、明日は俺にとって大事な日で、大切な奴と一緒に過ごしたかったんだ。


「最低だな」


そう言った俺に、土方は知っている、と言った。俺には何も感じていなさそうに、もしくはどうでもよさそうに見える表情を貼付けて。


それからあいつは仕事に戻ってしまったから、当然俺は誕生日に土方と一緒にいることは出来なさそうだということを予感した。
まあそれは予感ではなく現実のものになるのだけれど。





当日は、神楽や新八、それから妙や下の階のババアなんかにも祝って貰った。誰よりも、大切な奴らに。
それが案外気分のいいものだから、昔の記憶が蘇って来る。


いつも先生がいた。まだ子供だったヅラやら高杉がいたこともある。攘夷戦争でたくさんの仲間を失って、それでも隣にいたヅラや高杉に加えて、辰馬だって祝ってくれた。

いつもこの日には大切な奴らが周りにいてくれて。周りで笑っていてくれて。
だから、俺はただ、その中に土方がいればいいと、いてほしいと、思っていただけなのに。



夜になって、そんなことを考えながら一人きりになったところで、意外な人物が俺の元にやって来た。


「今日はおまえの誕生日なんだってな、おめでとう」


黒い隊服を身に纏い、少し疲れたような顔で、それでも土方が太陽みたいだと形容したのに相応しい笑顔を浮かべている。
あいつにとって誰よりも、何よりも大切な、真選組の局長さんだ。


「何、わざわざそんなこと言いに来たのかよ」


そんな仲でもねぇだろ。と言い足して局長さんの顔を見ると、こいつにはあまり似合わない、苦笑じみた笑みを浮かべていた。


「まあたしかにこれが目的って訳じゃないが、そんなこと言うな」

「じゃあ目的ってなんだよ」

「ああ、トシのことでな」

「え、あいつなんかあったの?」


トシって聞いただけで話を聞く気になるなんて、我ながら現金だとは思うが仕方ない。それほどあいつが好きなんだから。
あいつにはこの想いが重過ぎるとしても。


「昨日の夜、遅くまで部屋に電気が点いていたから、気になって覗いてみると、書類整理の途中で寝てしまったみたいなんだ。寝ながら、泣いていた」


あいつは意地っ張りだし素直じゃないから、本当に辛いとき、泣くこともできない。悲しいということを、素直に伝えることさえできない。
だから、意識のない睡眠中や、感動したと言い訳出来る映画鑑賞中にしか、泣けないんだ。



それを聞いて、俺は痛感した。嗚呼もう、本当に自分は馬鹿だ。
あいつがなにも感じていなさそうだとか、どうでもよさそうだとか、そんなことを本気で思っていたなんて。
土方はちゃんと傷付いてくれていたのに。俺の一言で、泣くほど悲しんでくれていたのに。


「早く、トシの所に行ってやれ」


その一言で、全力疾走。ここまで本気になったことはないのではないかと疑うくらいに。
早く。早くあいつに会いたい。
そのためなら、例えこの腕が失くなってしまってもいい。





屯所の近く、夜中だということで人気のない道に、漆黒のあいつはいた。
見回りの途中なのかもしれない。嗚呼、それでも。それでも、今、おまえに伝えなきゃいけないことがある。



「土方!」



驚いたようにこちらを見る土方を、思いっ切り抱きしめる。
本当は、一緒にいられなくても、こうしていれるだけでよかったんだ。
ぎゅうっと俺に抱きしめられている当の土方は、少し震える声で、ともすれば闇夜に紛れてしまいそうな音量で、言葉を紡ぎだした。


「……俺は近藤さんが大切で、恋人の誕生日に仕事をいれるような最低な奴だけど。それでも、おまえが好きだから。だから、まだおまえを好きでいても、大丈夫か?」


そんな哀しいこと、聞くな。好きでいても大丈夫か、なんて。そんな、哀しいこと。
好きなのは、おまえだけじゃないんだから。


「俺だっておまえが好きなんだから、好きでいてくれなきゃ困る」


俺の言葉に、土方が笑う気配がした。静かに、けれど幸せそうに。



「誕生日、おめでとう、銀時」



その言葉と同時に土方の両腕が俺の背中に回されたから、俺はますますこいつを強く抱きしめた。


「ありがとう」










大事な日
(大切な人が)(周りにいてくれるから)




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皐月様から、銀誕フリー小説ということでかっさらってきました←

切ない→ハッピィエンドは本当にRENの大好物なので、めっちゃ嬉しかったです
ありがとうございます★

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