SSS

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骸雲/切死/骸side









「骸、僕はそろそろ行くよ…」
「…は、い……っ、きょう、」

僕は無意識に君の手を掴んでしまった

「なに?」
「あっ、すみません」

「変な顔…君らしくないね」
「……、」

恭弥は手を掴んだままの僕に振り返り、少し微笑んで、僕の頬に掴まれていない方の手で触れる

「いつもの得意気な顔はどうしたのさ」
「恭弥だって、泣きそうな顔してます」
「なに、言ってるのさ…僕は、泣かないッ」


僕は頬に当てられた恭弥の手の上に自分の手を重ね、その身体を引き寄せる

「恭弥、」
「骸…離して」
「嫌、です」
「お願い、離れられなくなる…」
「…ッ、それは、どういう…」
「…分からない」


決して望んだ答ではなかったが、それでも拒絶ではなかった事が嬉しかった
でも、これ以上抱き締めていると、僕は恭弥を離すことは出来ない

仕方なく、背に回していた手を解く


「恭弥、僕…」
「駄目、まだその続きは聞かない」

恭弥は踵を返して、僕に背を向けて話しだす

「骸…」
「はい、」
「僕は…大丈夫」

「だから、さっきの話は帰ってきてから聞かせて、僕も帰ってきたら骸に話、あるから」
「分かりました、絶対ですよ」

「うん、じゃあね…」



恭弥の声は震えてた

それでも信じていた

君は必ず帰ってくると




なのに…

約束したのに…

なぜ、なぜなんですか…?

僕が帰ってきてほしいと願ったのはこんな君じゃない


「ヒバリさん、交渉の最中に銃で…」
「きょう、や……」

恭弥の頬に触れた手に伝わる体温は冷たくて、僕の体温を奪う
いつもは見えるふわふわした黒髪の間から見える漆黒の瞳はいくら呼んでも開かれる事はない

あの時僕が手を離したから…

こんな事になるなら伝えていればよかった

“愛してます”


たった五文字の言葉なのに

ずっと、伝えたかった言葉だった




どうして
(愛した君はもう居なくて)




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