short

□それでも僕は
2ページ/3ページ




僕は骸の死んだ恋人…雲雀恭弥の人格のデ‐タを内蔵したロボット

骸を愛す為に作られた人形


「恭弥、」
「なに、骸?」
「抱っこさせてください」
「やだよ、恥ずかしい///」


本当は恥ずかしくなんてない
僕は機械だし、マスタ‐の命令には絶対忠誠

それ以外にも理由がある
僕の中には、雲雀恭弥のデ‐タ通りであらないといけないのに、自我が目覚めてしまった

僕は骸が好き
“雲雀恭弥”のデ‐タがあるからじゃない
骸と一緒に過ごす内に自然に骸が好きになった


でも、僕は“雲雀恭弥”でないといけない


だから―…

「いいでしょう?」
「仕方ないな」


これも“雲雀恭弥”の人格デ‐タを元にした骸にとる反応
骸は、側に寄ると僕の腕を引いて腕の中に抱き締めてくれた
骸に抱き締められるのは好きだし、嬉しい

でも、骸は僕を抱き締める時、哀しそうな、泣きそうな表情を浮かべる

「恭弥、愛しています…」
「んっ、僕もだよ」



そんな、毎日を過ごしていたある日
いつもの様に抱き締められる中、僕は骸の名を呼ぶ


「ねぇ、骸…」
「なんですか?」

もう僕は、目覚めてしまった自我を押さえて、骸の望む“雲雀恭弥”であり続ける事が出来なかった
だから、伝わるかは分からなかったけど、伝えようって決めたんだ


「僕…骸が好き、なんだ…“雲雀恭弥”としてじゃなくて骸の事が「黙れ!!」

ビクッ
「ッ、むくろ…」
「恭弥はそんなこと言いません!
僕は“恭弥”が必要なんです、恭弥じゃない“モノ”なんて僕はいらない!!」

「骸…ごめん」
「…出掛けてきます」

骸は一言だけ残し、部屋を出た
骸がドアを閉めた後、僕の周りを静寂が包む


伝わらなかった…分かってた事だけど、もしかしたらなんて思ってた

骸が好きなのは“雲雀恭弥”だけ
僕であって僕でない、骸の大切な人
最初からかなう訳、伝わる訳が無かったんだ

でも、それでも、僕の…自分の気持ちは、骸が好きなんだ

「ッ、〜…ふぁッ〜…ど、して…伝わら、な…いの…?」


泣きたいのに、僕はロボットだから泣けない
涙を流す機能なんて、この身体には備わってない



「マスタ‐、掃除終わったよ」
「………」

それからの毎日は、出来ることをした
骸の為に、家事をしたいけど“雲雀恭弥”のデ‐タは家事があまり出来ないプログラムになっている
正直、出来ない事をする事はキツい、骸は僕に出来ることが増えるたび怪訝そうな顔をする

それでも僕は家事を続ける
もう僕は“雲雀恭弥”じゃないんだから




それから暫く経った、ある日の事
僕はもう耐えられなくなっていた
骸は常に苛々してる
僕の存在が骸に迷惑をかけてることは分かってた

消えないと、そう思いながらふらふらと宛てもなく行き着いた先は、名も知らない湖だった

「ここは…」

骸と“雲雀恭弥”が永遠を誓った場所
記憶はあるのに、気持ちは分からない
僕の知らない2人の気持ち


湖の前にしゃがみ込んで、両手で水を掬う

そして、おもむろに水を口に含む
その直後、恭弥は胸を押さえてその場に倒れこんだ

「気持ち、悪い…」

身体の中を流れる水が、電子機器に水が染み込んでいく感触
目の前が霞む、真っ直ぐ立てない


「…ます、た……」
「恭弥!!」

僕を呼ぶ声、骸の、声―…
ゆ、め…?……違う、本当に骸だ

「待っててください、今すぐ修理を!」
「待って…」

僕を運ぶ為に横抱きにした骸に制止の事をかける

「僕、これで…壊れら…れる、?」
「!?ッ何、言って…」
「僕は、マスタ‐の望んで…る“雲雀恭弥”にはなれ…ない…僕は僕と、して、マスタ‐が好き…なんだ
マスタ‐が…いら、ない僕は…いらな、い…」

「これ…デ‐タ」

僕は骸に記憶のデ‐タチップを渡す

「恭弥、」
「マス、タ…名前、呼んで…いぃ?」
「はい」
「むく…ろ…」
「はい、ッ…」


久しぶりに呼んだ名前
あれから、僕が名前を呼ぶと骸は嫌そうな顔をしてた
だから、名前で呼ぶのは心の中だけにしてた


「…、泣いて…る、の?」

恭弥が骸を見上げれば、骸は左右色違いの瞳から涙を流していた


骸が泣いてる
“雲雀恭弥”の為?
主人を泣かせるなんて、僕は悪い子だね


「ごめ…ね、むくろ……」
「謝るのは、僕の方ですッ!!
貴方の気持ちを知りながら、僕は恭弥を忘れてしまうのが恐かった…だから、貴方に“雲雀恭弥”と言う存在を押し付け、それを否定し続けた
それが間違ってたんです、貴方は貴方、なんですよね、僕を想ってくれた気持ちは、“雲雀恭弥”のデ‐タではなく、恭弥自身の気持ち」

「むくろ、」
「ありがとうございます、こんな僕を愛してくれて…すみません、貴方の気持ちを受けとめてあげるのが遅くなってしまって」


伝わった…?
僕の気持ちは骸に伝わったの?
僕の為の涙……
どうしよう、すごく嬉しい

「恭弥、あな、た…」
「えっ……」

僕、泣いてる…?
それはロボットの僕にはあり得ない現象だった


「恭弥、貴方を愛しています…」
「む…くろ、僕、も…あい、…して…る……」


骸の唇が僕の唇に優しく触れる
よかった、もう悔いを残すことはないな


「…むく、…ありが、と…」
「きょう、や…?ッ、恭弥!!」



目の前が真っ暗になり、骸に名前を呼ばれた直後、僕の意識は途絶えた



それでも
(身体は機械でもずっと、骸が大好きだった)



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ