short
□Lost story
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「待ちなよ」
「おや?」
「やっと見つけた」
桜の木を見上げるスペ‐ドへと声をかける
「諜報部のトップが僕に何の用ですか」
「こんなところで何してるの?」
「仕事、ですかね?」
「裏切り者として生きる事が仕事なのかい?」
「何のことですか」
桜に向けていた視線をアラウディへと戻す
「そんな簡単な嘘も見破れないほど僕は子供じゃないよ」
づかづかとスペ‐ドへ近づき、胸ぐらを掴むアラウディの手をスペ‐ドは汚らわしいとでも言うように振り払う
「マフィアが気安く触らないでください」
「っ、スペ「僕はもう守護者ではありません。これ以上、僕の邪魔するのであれば貴方であれども消します、よ」
身体を乗っ取る、のも良いかもしれませんね、とスペ‐ドは冷たい笑みをアラウディへと向ける
「遊びはここまでです、僕の気が変わらない内に「……いい、よ…」
アラウディの言葉にスペ‐ドは唖然となる
「君にならいい…スペ―ドが傍に、いてくれるなら、利用されてもいい」
「何を言って」
「…そのままの…意味、だよ」
「クハハハ、貴方正気ですか?」
アラウディが冗談でふざけた言葉を言う人間ではないことをスペ‐ドは分かっていた
その証拠に無意識かアラウディの肩は震えていた
動かないままのスペ‐ドにアラウディはぎゅっと抱きつく
「放してください」
「い、やだっ!」
「放せ」
「嫌だ!!」
はっ、としたスペ‐ドが自分から引き剥がそうとすれば、アラウディも放されまいと抱きつく力を強くする
「子供みたいなこと言わないでくださいよ」
「アラウディ、」
スペ‐ドは泣きそうな顔で、急にアラウディを抱き締める
「どうして僕を追い掛けるんですか」
「スペ‐ド…」
「僕は自由に生きる貴方が好きです…貴方が見なくてもいい闇を知る必要はないんですよ…闇を見るのは僕だけでいい」
「闇を、知ることになっても…僕は君といたい、よ…」
「我が儘、ですね」
でも貴方らしいです、と微笑って、次々と溢れだすアラウディの涙を指で拭い、瞳を手で覆って視界を奪う
「スペ‐ド…?」
「それでもやはり、貴方を巻き込む訳にはいかない…だから、貴方の記憶を…消します」
「や、だ…嫌、嫌!!」
「すみません」
「スペ‐ド、止めっ!スペ…」
瞳を合わせた途端、フッ、と糸が切れたように倒れ込むアラウディを支え、横抱きに抱き上げる
「アラウディ、愛してます…どうか貴方は幸せに…」
アラウディの存在を確かめる様にしっかりと抱き締め、唇にキスを1度だけ落とし、ゆっくりと桜の木の下に横たえる
「さようなら、アラウディ―…」
Lost story
(次に出会えるならば)(その時は共にいられる世界を)