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□貴方だけへの……
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――ああ、躯が熱い。視界が霞む。


『骸さん!?』

『しっかりして下さい!』

大丈夫ですよ

そう答えたかったんですが、残念ながら僕の意識はここで途切れたようです。










骸を目覚めへと誘ったのは、控え目に、躊躇うように額に当てられた冷たい手の平の感触。

ゆっくりと目を開ける。霞む視界に映る、一人の少年。決して見間違える事はない人物。

――その、はずなのに。

「……恭、弥?」

信じられない。良く似た別人なのでは無いかと起きぬけの頭で考えてしまう。
無表情なのに、その瞳には心配そうな光が宿っている。自分の体の怠さや節々の痛み、熱っぽさ等気にもならない。

「恭弥……どうか、したんですか?」

思わず口をついて出た言葉だったのだが、どうも気に障ったらしくピクリと片眉が跳ねた。

「どうかした、だって?」

声は仮にも病人相手――病人本人にも自覚は薄いが――とは思えない程の殺気がこもっている。
――それでも、今だ骸の額に置かれた手は離れずに心地好い凉を与えてくれていた。









恭弥の言葉によると、どうも骸は黒耀中の生徒会活動中に倒れたらしい。ここ最近は忙しかったから疲れが溜まっていたのだろう。
黒耀中の医務室は今日は保険医が不在で寝る位しか出来ない。一度犬達に医務室まで連れられて行かれて眠っている間に恭弥に連絡が行き、彼に引き取られて現在に至ると。

「……それは…なんと言うか、ご迷惑をおかけしました」

「まったくだよ」

これみよがしにため息をつかれ、返す言葉もなく落ち込む。

「僕は怒ってるんだよ」

「言われるまでもなく雰囲気でそれは分かりますよ」

苦笑気味に掠れた声で言えば、意外にも違うと返される。

「骸に対してももちろん怒ってるけど、それ以上に一緒に暮らしてて気付かなかった自分自身に対してだよ」

ここにきて、骸はようやく気がつく。恭弥の瞳に見え隠れする感情に。
全開の怒りに隠されているそれは――自責の念。
それを悟った時、骸はそれまで横になっていたベッドから上半身を起こした。恭弥の手が離れた事が少々名残惜しいが――

「ちょ、寝てないと――っ骸!?」

さすがに慌てる恭弥を、骸は無言で抱き寄せた。

「………骸、君熱い」

「クフフ、まぁ、熱がありますからねぇ」

僅かな沈黙の後、ボソッと呟かれた苦情にすいませんと笑う。

「……さっき熱を測ったら、39.8度もあったんだけど」

「……道理で怠い訳です」

「知ってる?馬鹿には3種類あるんだよ。風邪を引かない馬鹿、風邪に気付かない馬鹿、風邪に気付いても放って置く馬鹿」

「馬鹿は確定ですか」

骸は恭弥を抱く腕に力を込める。背中に腕を回された事が嬉しくて。

「当たり前だよ、そんな体で学校に行くなんて」

襲われでもしたらどうするつもりだったのだと言う恭弥の声は、僅かに湿っている。

「大丈夫ですよ」

恭弥の耳元で囁く。



「僕の命は、貴方だけのものですから――――」



 

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