・時の色・第壱〜第弐巻・

□・時の色・第壱巻之二・
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ー鈴音(壱)ー  


火の中を、
香味と共に走らせた
もう一人の女官巫女。

その名は 鈴音。

四番目の兄様で、
巫女の父の屋敷に仕えていた
警護を担う家臣の娘だった。

幼い頃から巫女と一緒で
仲の良い幼馴染み。
歳も変わらず
巫女の側に居てくれた。

巫女の母は線が細く
心が透き通った人だった。
その為に、いつも病に臥せってた。
淋しさを表に出せない巫女を気遣いながら、
鈴音は寄り添っていてくれた。
手先が器用で、
春風のような鈴音…。

いつも巫女と共に居てくれた
心優しい鈴音。

だが悪霊と戦う時は
守りとなった。
巫女と一緒に戦った。
この二人、
揃うと とてつもない力を出す。

鈴音にとって
巫女は命そのものだった。

だがあの日、
鈴音は生きる望みを失った。
生木を裂く別れ、
迫る火、
泣く鈴音。
何度も振り返り
香味と共に火の中を走る。

許せ鈴音よ…、
巫女は私と共に逝く。

一人では生きられぬ鈴音には、
私の愛する者を託そう。
この者も、そのままならば、
目的を失って復讐の鬼と化す。

生きよ!
来世の希望を引き継いで。

++++++++++++++++

ー鈴音(弐)ー


同じ痛みを持つ二人は
小さな村で
ひっそりと暮らした。

鈴音と一緒にいたのは、
怖れられた刃の狼。
名を捨てて、
生きる為に耐えていた。

やがて二人には子供が産まれ、
空と風の名を付けた。
男の子と女の子。

兄様よ
私はあなたの血を残したい。
例えその名は消されても、
流れは続く、
永遠に…。

生きる方が遥かに辛い
その道を
私は残していった。

心に傷を負い生きていく。

鈴音の心
鈴音の願いは
時の輪に。

鈴音の涙をこの胸に
私は戦う
全てを賭けて。

そして償おう…。
私がいたおかげで
尊い人生が
哀しみに溢れてしまった者達に…。
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