・剣と風の色・

□【刃の時】
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「漆黒」



引き裂かれた傷は、消えない。
失ったものは取り戻せない。

地を這い土を喰らっても…。
血を求め、血を吸すっても…。
身を削り、その身を喰らっても…。
失ったものの変わりに、何ら、埋める事は出来ない。

時が流れれば、記憶は薄らぐが…。
無くした傷はもとには戻りはしない。
粉々に砕けた石は小かな破片ように。
その形は容をせず。

残ったのは、真っ赤に染まった朱色の手だけ…。

暗に引きずられ。
漆黒の闇の中を、ただ一人り佇む。
迷宮の中をさまよう。
早く出たい。
此処から抜け出したい。


漆黒な闇の中
手を広げ何かに掴もうとしても…。

声を響かせ…。
誰かに伝えようとしても…。
帰ってくるのは、静寂さだけ。
吸い込まれて行く俺の声。
まとわり付くのは真っ黒な陰…。

そこには漆黒な闇しかない…。

どれぐらい、この闇の中で過ごせば良いのだろう…。

「孤独」
そんな言葉では言い表せない。


時が流れているのか。
俺の周りの時間だけが停止しているようだ。


このまま闇の中で消えてしまうのか。


薄れ行く意識の中。
記憶すら無くなって来た。
感覚…。
嗅覚…。
聴覚…。
視覚…。


辛うじてあるのは意識だけ…。

もう、眠りたい…。
もう、何も考えたくない。
だけど意識は眠らない。

闇と一つになれれば、どれだけ楽になるだろう。


誰…。
何処…。

そんな事すら忘れてる。

遠くなる。
遠くなる。
すべてが遠くなる。

今そこにあるのは…。
ただ、そこに漂っている存在…。

真っ暗な闇の中で…。
すべてを忘れ。
存在が消えた…。
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