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□プロローグ
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新学期が始まり、僕と双子の弟…ハレルヤは長期休暇があけてすぐに行われるテスト期間を目前に控えていた。
と言っても、実質そんな状況に焦りを感じているのは僕だけのように見えてしまうかもしれないけれど。
隣の弟は呑気に欠伸なんてしてるし…
「あ〜…だりぃ…。つか眠てぇ!!つか昼飯があんなちっせぇパン2つじゃもう胃袋空き空きだっての!!」
「はぁ…あの後僕のパンも一つあげたのに」
「ッるせーなぁ、そもそもお前が弁当もっと作ってくれりゃあ俺様の胃袋は悲鳴あげずにすんだんだよっ!!」
そう言ってまた額を指で小突かれ、そのまま力押しで最後には仰け反ってしまいそうなぐらいにグリグリと額を捻られた。
本当に痛いんだけど!!
僕は改めて思う。お腹を空かせたハレルヤほど恐ろしい人を少なくとも僕はまだ見た事がない。うん。本当に。
「………」
「何見てンだよ」
「……はぁ」
思わずため息が口から出てしまうと、今にも誰かに襲いかかってしまいそうな目つきが更に鋭く見えてしまう。
けれどそんな小競り合いも…こうしてハレルヤがいるからこそ。両親のいない僕達にとって、お互いはとても大切な家族であり支えだから。楽しいなって思えるんだ。
「オイこらアレルヤ。テメェ何ニヤニヤしてンだよ。殴っていいか?」
「ちょっ…!?何でそうなっ…」
「あの…」
僕達は、突然かけられた声にピタリと動きを止め、後ろから控えめに聞こえて来た少し幼さと女性らしさを含んだ声に振り返った。
そこにいたのは癖っ毛なのか、少しふわふわとした髪をお洒落に纏めたピンク色の髪の女子生徒が立っている。
「これ…さっき、そこで落としましたよ?」
「あ…。あれ、鍵…」
その女子生徒の手の上に乗っている鍵を見て、アレルヤは慌てて鞄を探ってみると、先ほどつんのめりそうになった時にでも落ちたのか、いつもソレを入れているポケットには何も入っていなかった。
「ありがとう、良かった…家に入れなくなる所だったよ」
「いえ…たまたま、見かけただけですから。でも大事にならなくて、良かったです」
そう言って簡単にだけど、お礼を言って別れた彼女はフェルトと言うらしく、今年入学したばかりの新入生らしい。
「なんだよアレルヤ、お前もなかなかスミに置けねぇ色男だなぁ。新入生の女子と早速お茶の約束でもできそーじゃねぇか?」
「はぁ…どうしてそこまで飛躍した考えになるんだい?親切に鍵を拾ってくれただけなのに」
茶化してくるハレルヤに呆れたように返事をしながら玄関を出て、そのまま校舎の離れにある図書館へと向かった。
もちろん、空腹なハレルヤはまた文句を言って来たけれど…。
「(……えーと…、このあたりかな…)」
休みの間、たまたま立ち寄った本屋で見つけた有名な著者の本を買ってみたら、それがとても面白く…けれどあまり贅沢のできる生活状況じゃないし、無駄遣いは避けたくて、ちょうど学校が始まる日も近かったから…2、3日前からここに来ようと決めていた。
「……あ。」
パラパラと読んでみたあの本と同じ題名があった。
それを手に取り、僕は少し急ぎ足で受付のカウンターに向かう。これ以上ハレルヤを待たせると食費が爆発的に嵩んでしまうし…。
「…はい。それじゃあ、来週までに返却してちょうだいね」
「はい、分かりま…し……」
ふと、渡された本と同時に入り口を見上げた。
なぜその時、僕はそこを見てしまったのだろうか…。今でもその理由はまったく覚えていない。
扉にもたれるハレルヤを視界が捉える前に、自分の隣を横切った銀色の髪。
視界を通して脳裏に焼き付いたその一瞬のビジョンに思わず振り向いた。目の前の受付の先生が、硬直した僕を不思議そうに見ていたけれど…
──僕は、その神秘的な銀色の髪の女性が消えて行った本棚を暫く見つめていた。