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□儚い
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駅の売店で働いている中年の女は思う。
お客について。
そしてここにいる自分について、だ。
ここで働き始めて3年以上経つ。
娘が一人居たが、もう結婚して疎遠になってしまっている。両親との折り合いが悪かったせいかもしれない。
どう接してやればよかったのだろうか。
未だに答えが出ていない考えは、よくこの頭に過らせている。
だが反面、正直やっと育児という長い仕事が片付き、安堵している事もまた事実だ。
ようやく自分の為に時間を割けると思っていた。
そんな矢先、夫が倒れた。よくいう更年期障害だった。
入院する事になり、老後の為にとっておいたお金を日々貪りつくしていく。
やむを得なく、何か仕事につかなくてはならなくなった。
だが、もうこの歳だ。さらにこのご時世となると中々雇ってくれない。レジ打ちもやってみたが、なかなか覚えられず、思うように体が動かない。仕事仲間からの視線が痛かった。
結果、精神的に参り、今に至る。
自分が勤務している駅は都心から少し離れていて、人も少なく、給料以外に不満な点はない。
暇なときは人間観察をするのが日課になっている。
朝、毎日飛び込み乗車をする人。毎週水曜日に都会の方のスーパーでセール品をごっそり買う主婦。
話したことはないが、自分の中では長い付き合いの友人だと感じている。
細やかなものではあるが、彼女はそれなりに楽しみを感じ始めている時期だった。
しかし、ある事をきっかけに彼女は人間恐怖症に陥り、自室に閉じ籠りブツブツと独り言を言っては、殺して。と泣きながら過ごす毎日。
仕事など出来るわけもなく、娘が毎月仕送り金をくれてはいるものの、彼女自身の生活は悲惨だ。
今は缶詰が主食になっている。
あの日、何があったか聞いても彼女は答えない。ただ『自分のせいよ。早く殺して。』と繰り返すばかり。
カメラも肝心なところが死角になっており、未だ謎に包まれたままにある。
その事件から半年後、彼女は栄養失調で亡くなった。