お宝

□雨の匂い
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『雨の匂い』



現在、雨により密閉されたような空間で俺と山本は無言で俯き合っていた。
なんで、こんなことになったのか。



そーだ、あいつの
「獄寺ー、今日部活ないから一緒に帰ろーぜ。」
って言葉から始まったんだ。


学校帰り、俺は山本と一緒に歩いていた。
10代目はリボーンさんの特訓で先に帰られてしまった為、山本と二人で帰る羽目になってしまった。

正直、心臓がうるさい。
好きな人と二人きりで並んで平静を保てるわけがない。
山本は笑顔で話しかけてくるが、俺は緊張で相槌を打つぐらいしか出来なかった。

そんな時だった。


――――ポタッ


「え?」


―――――ポタッポタッ


「うわっ!!雨降り出した!!」


いきなり大粒の雨が降り出した。


「獄寺!!どっか雨宿りしてこっ!!」

と俺の手を取り走り出した。

今、俺は山本に引っ張られ走っている。
ぎゃー!!止めろ!!絶対俺の顔赤い!!
手なんか握られたら期待しちまうだろうがっ!!
手じゃなくてもいいだろっ!!
つか手握らなくても走れるっ!!

とにかく頭の中はパニックだった。


そして山本に手を引かれ、どっかの店の前で雨宿りすることになった。


うん。まぁ、ここまではよかったんだよな。多分。


しかし、この季節雨に濡れてしまうのはマズい‥‥。
それでなくとも今日、10代目を迎えに行くのに遅刻しそうになって慌てていたからコートを忘れている。
その上、中に着るカーディガンもその時に忘れたため凍えそうな程寒い。

寒がってる俺をみて、持っていたコートを俺に正面から投げ被せた。


「ちょ、なんだよ、これ!!」

「それ、着ててよ。
俺、走ったから今熱いし、あんまコート着ないしな。」

じゃあ、なんでコートなんか持ってたんだよ!!
とつっこみたくなったが、きっと寒がってる俺を見かねて貸してくれたんだろう。


そんな優しさが好きなんだよな‥‥。
‥‥でも今は自分の性格が憎い。

「はっ。邪魔だからって俺に持たせるなよ。」

バカだろ、俺!!
山本の優しさ踏みにじってどーする!!

「いーじゃん、着てよ獄寺。」

‥‥山本は、俺をどー思ってるんだろうな‥‥。

「そ、そこまで言うなら着てやる。」

別にそこまで山本は言ってなかったが、素直じゃない俺には精一杯だった。


暫くそこで山本と話をしつつ雨宿りしていた。
相変わらず心臓はうるさい。


そこそこ服も乾いてきたのでコートを山本に返した。

すると山本が返したコートの匂いを嗅ぎ
「‥‥いい匂い」
って呟いた。


その言葉に思わず
「か、帰ったらファブっとけよ!!」と叫んでいた。
びっくりして無意識に。

そしたら、
「ファブったら勿体ないじゃんか!!」
と赤い顔した山本に返された。


以上回想終了。
そして、現在無言で俯く俺たち。
そうだ、こんなことになったのは全て山本の「一緒に帰ろう」から始まったんだ。
きっと端から見たらおかしな光景なんだろうな。

‥‥どうやったら、この現状を打破できるだろうか。

悶々と考えていたら

「‥‥っ。獄寺!!」

突然、至近距離にいるのに大声で名前を呼ばれた。

びっくりして顔をあげたら
目の前が暗くなった。

何が起きてるのか全く分からない。

何か大きなものに包まれてる‥‥?

そこで何が起きてるのか漸く理解した。

山本に抱きしめられている。

それが分かった途端体が固まったのが分かった。

‥‥え、どーすりゃいいんだ、俺?
これは夢、なのか?
夢なんだろーな。だって山本が俺を抱きしめるなんてあり得ない。
あるはずがない。


そして、山本が小声で
「ごめん、獄寺。
もー少し匂い嗅がせて‥‥。」
と囁いてきた。


完璧に動けなくなった俺。
そんな俺を抱きしめる山本。





俺と山本は、この後二時間このままだった。

END
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