短編2

□ハロウィン×コーヒー×ほんとの気持ち
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それは、ハロウィンの夜にやって来た。


小十郎はコンビニで弁当を買ってマンションに戻った。
エレベーターを降りて通路に出ると、ドアの前に赤い髪の人物が座っている。
(あれは――)
急いで駆け寄った小十郎が見たのは、思い描いた人物とは全くの別人だった。
それは、鮮やかな赤色の髪をした子供。鼻先までかかる前髪。黒い上下のトレーナーは、首もとに赤いスカーフらしいイラストと、胸に大きく銀色で「風」とプリントされている。
どうやら今流行りの「幻影戦隊 シノビンジャー」とかいう戦隊物のパジャマのようだ。
背中からは大きなリュクサックがはみ出している。
眉を寄せ子供を見下ろしていた小十郎は、暫くして「ああ、そうか」と思い当たった。

「折角待っててもらって悪いが、ウチにハロウィンの菓子はねぇぞ」

すると子供は立ち上がり、小十郎に一枚の便箋を渡した。
四つ折りにされたそれを開いてみると、丁寧な女性の文字が並んでいる。
書かれた文章はごくシンプルだ。

『小太郎といいます。貴方の子です。私には育てられません。お願いします。』

これはこれは、とんでもないトリックだ。
が、当然小十郎の身に覚えはない。
自慢じゃないが、ここ5年、女は勿論男とも関係はない。
小十郎が子供に年を訊ねると、黙って指を4本立てた。
4歳という事は、種付けが大体5年前。ちょうど自分とアイツが別れた頃と合致する。
(間違いない)
小十郎は確信すると、携帯電話を取り出した。




佐助が風呂から上がると、ベッドの上で携帯電話が鳴っていた。
仁義なき戦いのテーマ。
それは、5年前に別れた男専用の着メロだ。

「なんで今頃…」

佐助が出ようか躊躇していると着メロが止まった。
恐る恐る携帯を取り上げ履歴を見れば、10分前からひっきりなしにかかってきている。
何か緊急な用件だろうか?
リダイヤルボタンを押そうとした時、再び仁義なき戦いのテーマが鳴り響いた。

「いいから来い」とドスのきいた声で呼び出された佐助が5年ぶりに元カレの部屋に行くと、玄関先で見知らぬ子供を押しつけられた。

「これを見ろ」

手渡された便箋に目を通した佐助は、「だから?」と小十郎に聞き返す。

「テメエのガキだろうが、責任持って連れて帰れ」

「はあ!?冗談、アンタんとこに来たんだろ?俺様無関係。アンタの蒔いた種でしょうが」

じゃあサヨナラ、と回れ右して玄関ドアに手を伸ばしたところを、小十郎が佐助のパーカーのフードを引っ張って止めた。

「何言ってやがる。この髪の色はどうみてもテメエの種だろうが!」

フードを思いきり引っ張られ、佐助は一瞬息を詰まらせた。
ゴホゴホと咳き込みながら小十郎に振り向き、真っ赤な顔で反論する。

「髪の色がどうこう言うなら名前を見てみろよ、名前!『小太郎』と『小十郎』って、二文字もカブってんだろが!どうみたってアンタの子だろう!!」

「コイツは5年前に仕込まれたんだ。5年前っつったらテメエと別れた頃だろうが!好き勝手やってたんじゃねえのか!」

「あのねえ、その台詞まんま返すよ。5年前っつったら俺よりアンタの方が遊んでただろ?合コンにキャバクラ行きまくってたじゃんか!」

「あれは付き合いで仕方なくだ。テメエだって、かすがの尻追っかけてたろうが!」

「じゃあ何か?この子は俺様とかすがの子だとでも言いたいのかよ!」

「ンな断定はしねえが、この髪はテメエのガキ以外に考えられねえ!」

睨み合い、ギリギリと奥歯を噛み締め拳を握る小十郎と佐助に挟まれ、小太郎はオロオロを首を振る。
暫くして、小太郎は怖ず怖ずと手を伸ばし、小十郎と佐助の拳に小さな手を重ね、何事か囁いた。
先に気がついたのは佐助だった。
握り拳に触れた暖かい感触に下を見ると、目は隠れているが、今にも泣きそうな様子で小太郎が見上げている。僅かに動いている唇に耳を寄せれば「ケンカはやめて」と小さな小さな声が聞こえた。
佐助は頷いて小さな手を握り小十郎に目を向けた。
小十郎も小太郎の様子に気づいたらしく、佐助を見つめている。
佐助は小十郎に頷くと、小太郎の手を取って部屋に上がった。

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