10/12の日記

07:00
奥州九尾狐奇談 371
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眼前に鈍く光る爪が迫る。

――これまでか――。

ギリリと奥歯を噛み締め、白狐を睨む三成は、視界の端に人影を捉えた。

「やめろ!化け狐!」

青年の震えた叫びが上がる。それをきっかけに、「消えろ化け狐」「お侍様から離れろ」「お侍様負けるな」とあちこちから声があがり、石や割れた皿などが佐助に投げつけられた。
佐助は背に石ころを受け、ゆらりと振り返る。
周囲には恐怖におののきながらも鍬や棒きれを握り締める男衆。その中には石を掴んだ子供もいる。
そのどの眼も、佐助に憎しみを向けている。

――化け物を殺せ!
――村を焼いた化け物を殺せ!
――殺せ!殺せ!殺せ!

村人の心の声が佐助を責め追い詰める。

『違う!違う!違う!俺じゃない!』

佐助が大きく頭を振り、村人をねめつけた。

『どうしてわからない!?お前たち人間は、どうして日の本を滅ぼす三成に荷担する!?真に裁きを受けるべきはこの男だ!!』

絶叫とともに、佐助が最初に叫んだ青年に躍り掛かる。右前脚を振りかざし五本の爪を振り下ろす。

――ガッ!

佐助の爪は刀の鞘に止められた。

「くっ…やめろ佐助…そこまでだ…!」

それは聞き覚えのある声だった。

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