10/16の日記

06:36
奥州九尾狐奇談 375
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小十郎、止まってくれ!
政宗は祈った。
神頼みなんてものはしたくはないが、今は神でも仏でもなんでもいいから、小十郎に佐助を殺させるなと強く強く願う。
政宗は、一瞬小十郎と目が合った気がした。
その一瞬のうちに佐助が身体を翻す。七本の尾を勢いよく振り回し三成を薙ぎ払うと、小十郎と向き合った。小十郎の鋭い突きが佐助の眉間を捉える。
が、刀の切っ先は佐助の毛を数本、はらりと落としただけだった。
まさにギリギリのところで、小十郎は思い留まった。
否、小十郎に佐助は斬れなかった。
小十郎の腕が力なくおろされ、左手から刀が落とされた。一歩踏み出し、佐助の前に膝をつく。腕を伸ばした小十郎は、佐助の首を抱いた。

「…気が済んだだろう?こんなに傷付いて…もう、うちに帰るんだ…」

小十郎の目に所々赤く染まった白が映る。今まで気がつかなかったが、二本の尾がなく、あったはずのその根元は石のように固まっていた。その痛々しい身体に小十郎は言った。

「俺はお前を失いたくない…頼むから、もうやめてくれ…」

僅かに震える声。失う事への恐怖が小十郎を、戦慄かせる。
佐助はじっと押し黙っていた。

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