10/20の日記

11:23
奥州九尾狐奇談 379
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かすがは己と同じ名を持つ山を仰ぎ見た。
夜の闇に黒く聳えるその頂に、天守台の篝火が赤く小さく揺れている。吉継の傍らに捕らえられた己の主を目蓋の裏に思い返し、かすがは拳を握り締めた。
かすがに与えられた任務は九尾狐の生け捕りだ。
しくじれば謙信の命はない。
謙信の代わりに兵の指揮をとるべく、かすがは山の中腹に布陣していた。
既に夜の闇に包まれた春日山はひっそりとして見えるが、空堀には兵が隠れ、砦には鉄砲隊が控えている。
吉継は“狐狩り”だと笑っていたが、これはそんな生易しいものではない。これは紛れもなく“戦”である。
あの男は一体何を企んでいるのか。そして、一介の忍にすぎない己に戦の指揮がとれるのか。混沌と渦巻く疑念と不安を腹の奥に押し込み、かすがは前方の星達が瞬く空を睨みみた。
ごう、と鳴る風に胸が騒ぐ。
目を凝らし、闇夜に浮かぶ星をひとつひとつ捉えていくと、その中にジグザグと動く白い点をみつけた。

「来たな、佐助」

呟いて、かすがは背後の山を振り仰いだ。

――謙信様、私が必ずお救いいたします。ですから、どうか私に御力を…。

祈りをこめてみつめると、かすがは正面に向き直り、迫り来る白を見据えた。

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