10/22の日記

07:00
奥州九尾狐奇談 381
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迫り来る矢を前に、佐助は驚愕した。
まさか、謙信まで敵にまわるというのか――。
信じられない思いが佐助の身体を硬直させる。

『ぬしの味方はここにはおらぬぞ。ここに居るのは三成こそが天下人に相応しいと信ずるものだけ』

吉継の言葉が脳裏に浮かんだ。
謙信までもが、そう思っているのだろうか。謙信までもが…。
佐助は、ふたりきりで語らった夜を思い返した。間近で見た謙信は慈愛に溢れ、穏やかでいて、有無をいわせぬ威厳を放つ人物だった。その謙信さえもが、己を裏切るというのだろうか――。

「ッ――」

不意に身体を駆け抜けた痛覚と熱に、佐助が我に返った。
幾本もの矢が佐助の毛皮を掠めていく。そのうちの数本が肉を裂き、いまや血の斑点の浮き上がった毛皮に赤い染みを増やした。
佐助は激痛から鼻先に皺をつくり、身体を翻してこの場から離れた。
謙信までもが三成を認め、己を裏切った。
それは佐助に深い衝撃を与えた。
高度を上げ、矢から逃れた佐助は山頂の本丸を目指す。
ぎりりと奥歯を噛み締め、痛みを堪えて三成が居る頂を睨み付けた時、佐助はくらりと眩暈(めまい)に襲われ身体が傾いだ。

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