10/25の日記

21:23
奥州九尾狐奇談 384
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佐助の周りは一掃され、あたりは静寂に包まれた。
フーフー、と肩で荒く息を継ぐ佐助の身体が地面に崩れた。四肢を折り横たわる。再び起きあがろうと奮い立つが、石にでもなったかのように身体は重く、感覚が消え失せていた。
時折、指先や尾の先だろうと思われる場所に痺れが走るが、指一本動かすことは叶わない。
佐助はいうことをきかない身体に低く呻いて、唯一自由になる金色の眼をぐるりと巡らせた。
限られた視界の中に、人ひとりとして残ってはいないのだが、毒におかされ混濁とした意識は、山腹の少しばかり開けたこの周りに立つ木々にさえも敵意を向けた。常の判断力を失った思考は真っ直ぐと立つものがあれば、それを敵と認識した。
このままでは殺される。
佐助の頭の中で思考が巡る。
『殺される。嫌だ、死にたくない。三成を倒すまではまだ死ねない。死ねない。あそこに戻りたい。小十郎の所に。ああ、使命を果たさなければ。死ねない、死にたくない。帰りたい。事を成さねば――』
ぐるぐると回る脳内で、死への恐怖と小十郎、三成の姿が目まぐるしく入れ替わる。
瞠目する佐助の瞳には、直立する木々が、刀を構え徐々に迫り来る兵士に映った。

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