10/31の日記

20:15
奥州九尾狐奇談 386
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後ろ脚に力をこめ跳躍する。身体の感覚は大分戻ってきた。が、視界は相変わらず靄がかかっているように見える。
時折くらりとする頭を振り、佐助はただ前方を見据えた。斜面を飛び越えて見えた屋根は、本丸へと続く虎口の屋根だった。重厚な黒塗りの扉は一分の隙間もなく閉じられ、両端から伸びる漆喰の塀が佐助の侵入を拒む。
この向こうに三成がいる。
強くなる気配と匂いに佐助は再び地を蹴った。
十尺を優に超える虎口を飛び越そうとした刹那、地中から二十近い黒い陰が飛び出した。忍装束を纏ったその黒い陰達は、手にした鎖を一斉に佐助目掛けて投げつける。
佐助の四肢に、首に、胴に、尾に、冷たい鎖が絡みつく。身動きを封じられた佐助が虎口の内側に落ちた。
鎖の先を握る黒い陰が佐助を取り囲む。

「――くっ…!!」

「どうだ、これでは逃げられまい」

凛とした声と共に佐助の目の前にかすがが立った。
佐助を見下ろし、黒い陰、軒猿の面々に指示を出す。

「大谷の元に連れて行け」

安堵の吐息をもらし、かすがが小さく篝火が揺れる天守台を振り返った。

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