12/29の日記

07:29
奥州九尾狐奇談 387
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これで謙信様をお救いできる、そう思った時、かすがは凄まじい殺気に飛び退いた。
次の瞬間、ゆらりと身体を揺らした佐助から、殺気をそのまま体現したかのような青白い炎があがり、巻きついていた鎖が溶ける。
佐助を取り囲んでいた軒猿達もかすがを倣うかのごとく飛び退き、手に手に苦無を握る、が、その鈍色の切っ先が僅かに震えた。
触れれば一瞬に焼き尽くされそうな殺気。精鋭揃いの軒猿のみならず、かすがさえも凄まじいまでの殺気を放つ狐におののいた。
この狐を生きたまま捕縛するのは困難どころか不可能だ。
殺るか殺られるか、どちらかしかない。目的が果たせないならば、余計な犠牲は出すべきではない。
ここは撤退するべきだ――。
かすがはそう判断すると唇を噛み締めした。

――このまま引き返したら大谷は謙信様をどうするだろうか……。

「謙信様…」

美しく愛しい主の名を紡ぐ。
意識を狐から逸らした瞬間、青白い炎がかすがに向かってきた。
視界いっぱいに血走った金色の目玉がギロリとねめつけるのが映る。

――しまった…殺やれる!――

かすがの目の端に振り上げられた赤い前脚が映った。
鋭く光る五本の爪がかすがの白い喉笛に伸びる。

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