書架
□****清らかに。
1ページ/6ページ
月の眩しい夜だった。
――清き月影 慈雨も介さず
気高く 優しく
テイトは、フラウの部屋の大きな窓から月を眺めていた。
口ずさむのは、最近覚えた讃美歌。
――主よ 導きたまえ
雨に迷いし 幼き子供を
澄んだ歌声は、夜の空気に溶け込み、最初から何もなかったかのようだ。
部屋の主はというと、唄うテイトの少し後ろ、ちょうど棺桶の傍らから、何気なくその後ろ姿を見つめていた。
しかし、歌声はそこではたと途絶えてしまった。
…確かまだ続きの歌詞があったはずだ。
歌わないのを不思議にそして残念に思ってしまうのは、少年の歌声にすっかり聴き惚れていたからだと理解し、フラウは自嘲気味に笑った。
ふいに、月を眺めていたテイトが口を開いた。
「この歌詞、おかしいよな」
あくまで、翡翠の瞳は遥か頭上の月を映したまま。