書架

□お父さんがみてる。
1ページ/7ページ

「…司教って飲酒しても大丈夫なのかよ」

 傾けていたグラスを下ろせば、ジト目の中のジト目が俺を見据えていた。
 司教の飲酒は特に禁じられていなかったはずだが、自分の思い込みかもしれない。そう思って、とりあえずはぐらかすことにした。

「酒は万薬の長、って言うしな」

 もっともらしく(実際この諺は存在しているし)言ってやれば、いまいち納得しきっていない表情で、目の前のお子様はふぅん、と呟いた。

「ま、飲みすぎなきゃ問題ねぇよ」
「曖昧だな」

 こいつ、最近なかなか痛いところを突いてきやがる。

 ふと泳がせた視線を時計にやると、短い方の針が今まさに11という文字を指そうとしているところだった。

「テイト、そろそろ部屋戻れ」
「ん…まだ、もうちょっといたい」
「ったく、しゃーねぇなぁ…」
 オレがこいつを好きだと言って、こいつもオレを好きだと言ってくれたのはもうだいぶ前のこと。
 それ以来、首輪の誓約なんか関係なく、一緒にいる時間が増えた。
 ただ、前までと決定的に違うのは、テイトの方からオレに会いにくる回数が増えたということ。今日だって、そのうちの1回だ。

「オレが酔って先に寝ちまうかもな」
「そん時は叩き起こす」
「頼もしいこって」

 要するに、一緒にいる時間は構ってほしい、ってとこだろう。くしゃりと髪を撫でてやれば、昼間のように反発することなくくすぐったそうに微笑んだ。


 酔って寝るなどあるものか。テイトと過ごす時間は、オレにとっても大切なものなんだ。

 しかし、その大切な時間は唐突に途切れることになる。

 コンコン、というノックの音に続いて、

「フラウ、起きていますか??」


「…カストルの奴…」

 苦々しげに呟き、残りわずかだったグラスをぐいと煽る。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ