書架-泡沫-
□act.0-無題-
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その日、テイト=クラインは一日のうちに同じ場所を何度も何度も行き来するという事態に陥っていた。
無論、道に迷ったとか、変な結界が作動して出られなくなったとか、そういう類いのものではなくてだ。
「あー…うー…」
言葉にならない低い声を発しながら、ある特定の廊下ばかりを行き来している。
行き来を始めてからずっと手にしていた本ですら、悲鳴を上げそうな雰囲気である。
「なんなんだよ…なんで…」
苛立ちとも取れる呟きののち、通りすぎざまに一瞥したのは、
…1075室。
「ありえねぇっ…ただ本返すだけだってのに!!」
どうやら先ほどからの苛立ちは、他でもないテイト自身へ向けられているようだ。
「何を躊躇ってんだよ俺ぇっ…」
足は依然、その部屋へは向かない。