三ねね話〈SS、お題等〉

□短編〈1〉
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「おねね様…」


「ね、ね、三成。
 …あの、やっぱりちょっと待って」




──何を今更。


俺は指先に掬い取ったおねね様の柔らかな栗色の毛を梳きながら、
彼女の白過ぎる項に手を伸ばす。

間違っても彼女の肌に傷など付ける訳にはいかない、
指先で横髪をそっとかき上げると、ほんのり赤みの挿した小さな耳朶が顔を出す。


普段隠れているそこは、陽に妬けることなくどこまでも白い。

元気の有り余る彼女からは想像し難い滑らかな首筋が悩ましく、
見慣れない光景に不覚にも鼓動が速くなる。




「ね、三成やっぱりあたし…」




耳元を何故か真っ赤に染めてこちらを振り返る。
少しだけ潤んだ瞳がこちらの胸の奥をちくりと刺した。


この期に及んでまだ迷いがあるのか。

でも…もうここまできたら。



俺は彼女の不安を取り除きたかった。

肩越しに振り返る彼女の前髪を優しくかき分け、
その柔らかい髪ごと、丸い頬をそっと包み込む。




「私を、信じて下さい」









***






「もう!だから言ったじゃないー!!」



甲高い悲鳴に、無言で耳を塞ぐ。

少しばかり目測を誤ったらしい、俺が削いだおねね様の前髪は
童のように眉上で風にそよいでいた。


もう少し長めに残すつもりだったが、彼女との距離が近過ぎて
知らぬ内に身体が緊張していたらしい。

震えを悟られぬよう妙な姿勢で小刀を手にしたのが災いしたようだ。

後ろ髪は我ながら程良い感じの仕上がりだったのだが…
前髪は少しばかり不興を買ってしまったらしい。


だいたい前髪となると嫌でも顔と顔を突き合わせる距離になる。
この状態で普通にしろという方が無理な話だった。




もう〜こんな短いの恥ずかしいよ、どうしよう。

前髪を指先で摘まんでおろおろとその辺りを落ち着きなく彷徨う。




「そうですか?」




道行く年頃の娘みたいで案外可愛らしい…

とは口が裂けても言える俺ではない。



仕方なく懐に手を差し入れ、髪留めを取り出した。




「おねね様」


「なぁに?」


「そのまま動かないで下さい」




そう言い置いて、背丈の低いおねね様と目線を合わせる。
そのまま左手を伸ばしそっと前髪をかき上げた。




「…え? え?」




思わぬ距離にぱっと赤面した様子だったが、
俺まで赤くなる訳にはいかぬので気付かなかった事にする。

つもりだったのだが。



ちょっと待て、何故目を閉じる…!



さも口づけを待っているかのような類のものでは無いにしろ、
頬を染めぎゅっと目をつむったその仕草は実に、実に頂けない。

揺らぎそうになる自制心を必死に奮い立たせ、辛うじて身を剥がす。




「これで、幾分ましになりませんか」




…以前城下で目に留まった朱色の髪留めだった。

何となくおねね様に似合いそうだとか勝手に思い込んでいたが、
思いのほか俺の見立ては中々のものらしい。

驚いた様子のおねね様は小さな手鏡で己の姿を認め、
その髪留めにそっと細い指をやり、




「かわいい…」




それから、何度か手鏡を覗き込む角度を変え変え、
不安げな面持ちはいつしかご満悦の表情になっていった。

どうやら短い前髪は気にならなくなったらしい。

内心ほっと胸を撫で下ろす。


それから、




「ありがとう三成…」


色々文句言っちゃってごめんね。




伏せ目がちにそう言ったあと。
やはり耳と頬を赤く染めながら、ぽそぽそと想いを口にした。




「すごくうれしい…大事にするね」




その思いがけない言葉と花のような笑顔に。

俺が骨抜きにされたのは…まぁ、言うまでもない。










【戦国無双3移植記念★\(^o^)/← その喜びの勢いで単発ってみました。ハッハー!】

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