NOVEL -Short
□柊の事情(執事たちの沈黙)
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(御堂side)
…クシャミが出た。
しまった。
昨夜はソファで寛ぐつもりが、いつの間に眠ってしまったのか…ワイシャツをはだけたまま朝を迎えていた。
危うく寝坊は免れたものの、風邪などひいてしまったら執事の仕事は務まらないではないか。
ましてや最近は新型インフルエンザが流行り、誰もが咳やクシャミに敏感になっているというのに。
せっかくお嬢様のお世話というオイシイ仕事を頂いているのに、風邪気味だということがバレたら、即刻お役御免だ。
誰かに見られなかっただろうか…?
私は思わず辺りを見回した。
あいつは…
一瞬、身体が固まる。
柊さんが、冷たい瞳でじっとこちらを見ていた。
しまった…見られてしまっただろうか?
…不覚だ。
私は…今の仕事を取り上げられてしまうだろうか。
ところが、あれから何日経っても私の立場が危ぶまれるようなことは起きなかった。
もちろん、あれ以来体調管理は万全だ。
風邪が悪化することもなく、私は日々の努めに邁進している。
お嬢様との関係も順調だ。
ただ…柊さんの視線は相変わらず冷たく、常に少し離れた場所から射抜くように俺を見る。
毎日あの視線を向けられるのは、気が気ではない。
ああ…針のムシロとはこのことか。
いっそのこと暴露して貰っていた方が、解放されたろうか。
…………
(柊side)
あいつ…御堂要…なんなんだ…
仕事は完璧だし、立ち居振舞いは西園寺のご子息たちにもひけをとらないほど、気品を兼ね揃えていやがるくせに…
「えっくち!」ってナンダよ?
…あれはクシャミなのか?
いかん、笑ってはイケナイ…アイツは年下であっても俺の先輩だ。
先輩を笑うなんて、絶対にイケナイのだ…
かくして、柊はカナメを見る度にひたすら笑いを堪えるため、無表情と化すのであった。
おしまい