君の中へ堕ちてゆく

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珠姫が真選組に来てからずっと、俺は朝珠姫を起こしに行く。

俺ァ朝に弱い方だが、珠姫の為だ。


今日――珠姫の背中に、傷跡を見つけた次の日のこと。

俺は珠姫を起こそうとしていた。

もちろん、珠姫の部屋まで行って。



「あれィ?珠姫じゃねェですかィ。おはようごぜェまさァ」



目の前に見つけた珠姫に話かける。


珍しいですねィ、珠姫が朝ちゃんと起きてるなんて。

と、言葉を紡いで。



「今、起こしに行こうとしてたんでさァ」



珠姫はもう隊服を着ていた。


昨日、なんだか気まずい雰囲気になった。

だから、出来るだけいつものように振る舞う。

緊張してるのが、バレねェように。



『……おはよう。いっつもおおきにな』



突然、珠姫はお礼を言う。

何に対して言っているのかわからなかった。


次の珠姫の言葉を聞くまで。



『けど、もう起こしに来てくれんでも大丈夫』



起きれるようになったみたいやし、ホンマおおきに。

そう、震えた声で続けて。


珠姫は一瞬俺と目を合わせた。

けれどそれ以外は、ほとんど目を合わせてはくれなかった。


最後は笑ってお礼を言った。

だけど珠姫はちゃんと、笑えていなかった。

笑顔を作っていた。


なにか言わなきゃいけねェと思い、口を開こうとする。

そうしたら珠姫は、スッと俺の横を通り過ぎていった。



「珠姫……」



なんだか珠姫が、遠くなった気がする。

こんなにも近くにいるのに。

手を伸ばせば届くところにいるのに。

なのに、心の距離、というやつが――。

昨日の一件で、天と地くらい離れてしまったような気がする。


その後俺は食堂に行った。

珠姫はちょうど食べ終わったみたいで、食堂を出ていった。


俺はいつもと同じように仕事をサボっていた。

そんなときに廊下とか庭ですれ違っても、珠姫はただ、俺の横を通り過ぎていくばかりだった。



「珠姫、一体、どうしちまったんでさァ……?」



夜、部屋で一人呟いた。


珠姫が俺の知らないところへ行っちまいそうで、怖くなった。

俺は取り残されるんじゃねェかと、不安になった。


珠姫には何処にも行って欲しくねェ。

ずっと俺の傍で笑っていて欲しい。

だけどもうすぐ、俺と珠姫を繋ぐ糸は切れそうだ。


俺は珠姫が、珠姫のことが好きだ。

特別優しくしてもらったわけじゃねェし、特別可愛いとか綺麗ってわけでもねェ。

でも俺は、珠姫に惹かれた。

離したくねェと思った。

傍にいて欲しいと願った。


好きになった理由なんてきっとない。

いらねェと思うし。




壊れる……壊れていく……。

もしかしたら俺は、君との関係を自分で壊したのかもしれない。






(2009.07.23)


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