君の中へ堕ちてゆく

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どうしよう。

今日のあたしはなんかおかしい。


ホンマは沖田くんに、あんな行動取りたくなんてなかった。

無視なんてしたくなかった。

あんな台詞、言いたくなんてなかった……。



「なぁ珠姫、俺はどうしたらいいんでさァ?」



沖田くんの部屋の前を通りかかる。

と、そんな呟きが聞こえてきた。



『沖田、くん……?』

「珠姫は俺らを、俺を、信じてくれてねェんですかィ……?」



そんなことない。

あたしはそう言いかけて、手で口を覆った。


何故か、今此処におることが、バレたらあかんような気がして。



『ごめん、沖田くん……』



あたしは呟いた。

沖田くんに聞こえへんように、ちっちゃい声で。



「……珠姫?」



部屋に戻ろうとしたら、床がギシッと音を立てた。


その音に気づいたんかどうかはわからへん。

沖田くんがあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。


あたしは咄嗟に、物陰に隠れた。



「珠姫?其処に、いるんですかィ?」



沖田くんの声と共に、ふすまが開く音が聞こえた。



「気のせい、ですよねィ。まさか珠姫がこんなところに……」



珠姫……。

沖田くんはもう一度あたしの名前を呟く。

その沖田くんの声と共に、今度はふすまが閉まる音が聞こえた。


沖田くんの声、震えてた。


そのまさか、あたしは今、此処におる。

沖田くんの部屋のすぐ近くに、おる……。


なんであたし、隠れたんやろう。


あたしは部屋に戻って泣いた。

誰にも聞こえへんように、あたしにしか聞こえへんように、声を押し殺して。



『ごめん、ごめんな、沖田くん……』



沖田くんが部屋から出てきたとき、隠れるんやなかった。

隠れずに、ごめんって謝ればよかった。


でっかいでっかい後悔が、あたしを襲った。

その後悔を、あたしはどうすることも出来ひんくて。

あたしは、とにかくずっとずっと、部屋の中で泣いてた。




あたしは臆病や。

壊れるのを恐れる余りに、自分で壊してまう……。


昔にも、こんなことあった気がする。


臆病な上、あたしは学習ってモンをしぃひんらしい。


ごめん、ごめんな。

と、沖田くんに心の中で謝る度に。


沖田くん、って。

そう、口にする度に。


涙が溢れてきて、止まらへんようになる。

それでもあたしは謝り続ける。

沖田くん、って、呼びかけ続ける。

無意味やとはわかってるけど。


――不器用、とも言うかもしれへん。

けどあたしに“不器用”は似合わへん。




臆病になりすぎた余りに、あたしは。

壊したくないものを、自分で壊してまう……。






(2009.07.23)


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