君の中へ堕ちてゆく

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沖田くんは、何回も謝ってくれた。

あたしがもういいよ、って言ったのにも関わらず。

何回もういいよって言うても、何回も謝ってくれた。


ホンマに、沖田くんは優しい人やなぁって思う。



『あたしさ、』

「ん?」

『怖かった』

「珠姫……」



涙が頬を伝ったのがわかった。

泣くつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。

けど、自然と涙はあたしの目から零れていって。



『昔のことを、思い出すのが怖くて……っ、沖田くんとの関係が壊れるのが怖くて……っ』

「大丈夫でさァ」



沖田くんのその声は、めっちゃ心地よかった。



「俺と珠姫の関係が壊れるなんてことァ、あり得やせんぜ」



くしゃくしゃっと、頭を撫でられた。


あぁ、やっぱり沖田くんの隣は落ち着くなぁ。

なんてあたしは、そんなこと考えて。



「過去は、話せるようになったら話して下せェ。俺ァそれまで待ってやす」



ぎゅって沖田くんに、抱きしめられた。

沖田くんの腕の中は、やっぱりあったかくて。


あたしよりずっとずっと大きい身体で、腕で。

ただぎゅっと抱きしめられて。


沖田くんの隣におることが。

沖田くんに包み込まれてることが。

あたしにとって、何よりの幸せやった。



『おおきに、沖田くん』

「……総悟」

『へ?』

「総悟って呼んで下せェ」



すっかり涙もおさまったあたしに、沖田くんは言った。

一瞬、何のことかわからへんかった。



『けど……』

「仕事以外でいいんでさァ。総悟って、呼んで下せェ」

『そ、総悟……?』



あたしが名前を呼ぶと、沖田くん……や、総悟は、柔らかく笑った。

今までに見たことないくらいに。


あたしと総悟は、ずっと話してた。

仕事なんて放ったまま、縁側に座って陽が暮れるまで。

今まで話せへんかった分、ホンマに沢山、沢山。

これでもかってくらい話してた。


もちろん、副長にはこっぴどく怒られたけどね。



『あたしは、強くなってみせる……!』



部屋で一人、あたしは呟いた。

窓の外の月を眺めながら、ぎゅっと拳を握り締めて。


過去を話せるように。

あたしを悪者に仕立て上げて、背中に傷をつけた奴らなんかに、負けへんように。

真選組のみんなを、総悟を護れるように。




もっともっと、強くなりたい。

あたしは剣は出来ても、メンタル面が、心が弱いから。






(2009.07.23)


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