君の中へ堕ちてゆく

□05
2ページ/2ページ




あたしが真選組に入隊して、一週間と数日が過ぎた。

仕事にも隊士のみんなにも慣れて、趣味に使う時間も出来てきた。


そんなある日のこと。



「珠姫。いやすか?」



そんな声がして、ふすまが開く。

ふすまの向こうには、声の主である沖田くんが立ってた。



『どうしたんですか?』



振り返って、あたしは沖田くんに問いかける。


あの宴会のあと、あたしは一番隊に入ることになった。

だから沖田くんに敬語を使って話した。

沖田くんは隊長で、あたしはその部下って存在。

部下が上官に敬語で話すんは当たり前のこと。


でも、沖田くんにタメでいいって言われた。

けどあたしは、仕事中は“沖田隊長”って呼んでる。

もちろん敬語を使って。


沖田くんはちょっと不満そうやけど。

ちょっとっていうか……だいぶ不満そうな気がしなくもない。



「仕事でさァ。明日から京に行きやすぜ」

『京に、ですか?』



あたしの中に、あの日の記憶が一瞬、蘇った。

ほんの一瞬だけやった。

たったの一瞬だけやった。


その一瞬は、あたしにとっては、一時間のようにも感じれた。


めっちゃ鮮やかに、あたしの傷を開いて、広げるかのように。

心の奥底に封印してた記憶が引きずり出された。


京という単語を聞くだけやと、なんとも思わんようなった。

けど、京に行く、やと別になってくる。

あの景色を、あの人らを、もう一度見ることになるから。



「行けやすよねィ?」

『……大丈夫です。出発時間は?』



胸が苦しくて、辛い気持ちを悟られへんように答える。

幸い、沖田くんはなんにも気づいてないみたいや。


もしかしたら、気づいてるんかもしれへんけど。



「朝8時、でさァ」

『わかりました』



あたしが返事をすると、沖田くんはふすまを閉めた。

閉めてすぐに、足音が聞こえて、だんだん遠ざかっていった。


京には正直、行きたくなかった。

あの景色は、あの人らは、二度と見たくなかった。

けど、仕事やししゃーない。


嫌な気持ちが大きくなりつつも、その日は寝た。

たぶん、それ以上起きてたらあたしは、壊れてたかもしれん。




次の日の朝8時頃。

あたしと沖田くんは屯所を出て、京へと向かった。


京に着くと今日の仕事も順調に終わらせて、もう夕方。

一泊二日での仕事らしい。


嫌いな京での仕事は、長いようにも短いようにも感じた。

長かったんか短かったんかは、わからへん。



『沖田隊長。宿は決まってるんですか?』

「まだでさァ。珠姫、いいとこ知りやせんか?」

『大阪、でいいなら知ってます』

「大阪……ですかィ?」



沖田くんは大阪でもいいって言うてくれた。

だから、その日の宿は大阪でとることに。



京は嫌い。大阪は好き。


あたしはいっつも疑問に思う。

なんで怒りの矛先を、あいつらやなくてあたしに向けるんか。

なんでその目を、あいつらやなくてあたしに向けるんか。


あたしはなんも悪いことしてへん。

あいつらが剣握ったから、あたしも戦う為剣握っただけ。

悪いのはあいつら。

あたしはなんも悪くない。


あたしを見てるのもわかる。

あたしを見て言うてることもわかる。




wrong acts

――邪悪な行為


それは、あたしを知る京の人たち全員に言えること。






(2009.07.23)


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ