君の中へ堕ちてゆく

□06
2ページ/2ページ




京からさほど遠くない位置にある大阪のとある宿。

珠姫の勧めでこの宿にした。



『あのさ沖田くん』



呆れ気味の声で、珠姫が俺を呼ぶ。

珠姫が何が言うのかは、大体検討がついている。



「なんでさァ?」

『なんでおんなし部屋なん?』



いつも通りに返事をすると、返ってきた予想通りの質問。

絶対に訊かれるだろうと思っていた。



「俺の自腹だからに決まってるだろィ」



珠姫はため息を一つつくと、口を閉ざしてしまった。


本来なら、土方さんの口座から引き落としされるようにする。

まさか、俺の口座から引き落としさせるわけがねェ。

けど土方コノヤローが、給料から引くとか言いやがった。

だから一部屋にして、経費を節約した。



「珠姫」

『ん?』

「珠姫は、家族とかいるんですかィ?」

『んや、いぃひんよ』



何故そんなことを訊くのか。

みたいなそんな顔をしている珠姫。

疑問に思ってはいるみたいだ。

だけど、そこまで理由を知りたいわけではないらしい。

そこは訊いてこなかった。



「でも初めて会ったとき、家出って……」

『あぁ、それはあたしを置いてた家のこと』



珠姫は、あんなん家族やないし、と、冷たく吐き捨てた。


……珠姫は嘘を言っている。

何故か、そんな気がした。


証拠があるわけじゃなくて、俺の直感。第六感。



『沖田くんは?』

「姉が一人いやす」

『お姉ちゃんかぁ〜、羨ましいな……』



独り言のように珠姫は呟いた。

誰かに返事を求めているような言い方ではない。



「珠姫、なんで宿、大阪にしたんでさァ?」

『理由?京は嫌いで大阪が好きやから』

「京が嫌い?生まれた場所なのに、ですかィ?」

『うん。京の人、あたしにだけは冷たいから』



目を伏せる珠姫。

言うのは辛いことなのだろうか。



『気づいてた?京におったときに、あたしに向けられてた視線。あたしを見てヒソヒソなんか話す人たち』



俺は頷く。


気づいていた。

珠姫に向けられる冷たい目も。

珠姫に対して何かを言っていたことも。


……何を言っていたかは聞き取れなかったけど。



『それに対して、大阪の人はみんなあたしに優しいから』

「昔京で、何かあったんですかィ?」

『……その話は、また今度ね』




カクシテイル。

珠姫は過去を隠している。

そんな気がしてならねェ。


家族のことにしてもそうだ。

俺に話そうとしねェ。


俺に過去を話したくないのか。

俺に過去は話せないのか。

過去を話すことが怖いのか。

考えられるのはこの3つだ。


もしかしたら別の理由かもしれねェ。

けど、別の理由は考えにくい。


珠姫は、過去を悟られないようにしている。


俺に話しているのは、自分で大丈夫だろうと思ったところまで。

そう、俺は思う。




その理由を、君の過去を。

君自身が俺に話してくれるのは、いつなんだろう。






(2009.07.23)


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ