君の中へ堕ちてゆく

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朝に滅法弱いあたしが、珍しくちゃんと朝起きた。

いっつもは沖田くんが起こしに来てくれる。


沖田くんも、朝には弱いみたいやけど。



「起きてやすか、珠姫」



ふすまの向こうから、沖田くんのそんな声が聞こえた。

スッとふすまが開く。


あたしはまさに着替え中。



「…………珠姫」

『……な、に?』



何故か重い空気が流れた。

沖田くんの声が、いっつもと違ったからかもしれへん。



「その傷……その背中の傷跡、どうしたんでィ?」

『背中の、傷?……あぁ。この傷、気づいたらあってん』



そんなん嘘や。まるっきり嘘や。

気づいたらあったなんて、そんなわけない。


この背中の傷は、あのときについた傷。



『なにがどうなってこの傷がついたんかは、わからへんけど』



なにがどうなってこの傷がついたか。

それくらいわかってる。覚えてる。

あのときのことを、忘れるわけがない。


……忘れようとはしてみたけど。


――あたしの罪は、たぶんかなり重い。

沖田くんに、何回も何回も、嘘ついてる。

これは許される罪なんかやない、よな……?


不意に、後ろからふわっと抱きしめられた。

それが沖田くんやってことに気づくまで、あたしは数秒かかった。



「珠姫」



切ない声が、あたしの名前を呼ぶ。


沖田くんのその声は、余りにも切なすぎて。

あたしは、返事が出来ひんかった。



「どうしても、話してくれねェんですかィ?珠姫の過去を」



固まってもた。

沖田くんにこんなこと言われるなんて、思ってもいぃひんかった。



『……ごめん』



沖田くんにだけでも、ホンマのことを話したいのは山々やった。

けど、沖田くんにだけ、とはいかへんから……。


だからあたしは、そっと沖田くんの腕をほどいた。

ちゃきちゃき隊服を着ると、その場を後にする。



「珠姫……」



沖田くんのそんな呟きも、あたしの耳には届かへんくて。




ふわっと後ろから抱きしめてくれた沖田くんは、あたしなんかよりずっと身長高くって、ずっとおっきい手ェしてて、ずっとがっしりした腕してて。

それやのに沖田くんは、あたしのこと柔らかく抱きしめてくれた。


沖田くんはドSで腹黒い。

けど、それでも優しさを持ち合わせてる。


……もしかしたらあたしは、傷つけてもたかもしれへん。

沖田くんのことを、傷つけてもたかもしれへん。

だって、沖田くんはあたしのこと心配してくれた。

せやのにあたしは、冷たくしてもーた。




気づくのが、遅すぎたんだ。

これから起こる負のこと、マイナスのことは、全てにおいて、あたしの判断ミス。






(2009.07.23)


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