believe-心-

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カーテンの隙間から漏れる光で目を覚ました。

光とは逆の方――つまり襖の法を向いてまた目を瞑る。


と、ノックの音。



『誰だ』

「俺だ、入るぞ、咲菜」



イエスの返事も聞かずに部屋に入ってきたのは副長。


まだはっきりとしない頭で浴衣が乱れていることに気づく。

今日はいつにも増して激しい戦闘の夢を見たからか。

思考は巡らせたものの、直すには至らなかった。


すると襖を閉めた副長が私の前でしゃがみ込む。



「これくらい、自分(てめェ)で直せ」

『……るせェ』



私の言葉が副長に届いたかはわからない。

ただ私は、副長が浴衣を治す間視線を逸らしていた。


今まではこういうことが恥ずかしいなんて、全く考えたことがなかった。

こんな状況になったことがなかったのもあるけれど。

だけど、何故だろう、物凄く恥ずかしくて。



「で、咲菜、体調はどうだ」

『眠ィ。まだ、寝る』

「今日は駄目だ。体調に問題がねェなら、隊服に着替えて広間に来い」

『広間?何処だ?』



一番最初に宴会をしたところだと言われたけれど、わからなかった。

だから副長に部屋の外で待っていてもらうことにした。


随分とすっきりしてきた頭で、今日広間で何をするのかを想像してみる。

また宴会だろうか、と考えながら襖を開けた。



『お待たせしました』

「咲菜お前ェ、」

『何でしょうか?』

「口調、」



口調?と訊き返すとそうだという返事。

私は正体がバレてからはずっとこの元の口調のはずだ。


……もしかして寝起きのときのことだろうか。

寝起き――というか、不機嫌なときはどうも男口調が抜けなくなってしまった。

その不機嫌なときの一つが寝起きだ。



『不機嫌なときは抜けないんです、男口調』

「そうか」

『行きましょう、副長』

「あ?……あァ」



私が促すと、副長は左へと歩いていく。

その副長の後ろを私はただついていった。

会話はない。




広間には名も知らぬ隊士が沢山いてそこが狭く見えた。

何をするのかは全く想像がつかない。






(2012.02.07)


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