君の中へ堕ちてゆく

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此処は……何処やろう。

なんか、ジェットコースターに乗ってるよーな気分。


そう思て目を開けてみたら……。



『いやぁぁぁぁあああ!!!』



あたし今、空を急降下してました。


……ってのんきに解説してる場合じゃない!

どーしよう?あたしどうすればいい?

そう考えてるうちにも、あたしの身体は急降下していってる。


あぁ、ついにあたしは死ぬんや……。

なんて思って、まだ残ってる人生に想いを馳せた。



「ん?なんでィ?」



ふと下を見ると、空を見上げて何かを呟いた男一名。


その瞬間、言葉には言い表されへんような凄い音がした。

あたしは空見上げてなんか呟いた男の上に、落ちた。



『ったたた……』「いってて……」

「『ん?』」



あたしは見下ろす。

男……いや、あえて言うなら少年?は見上げる。



「アンタ今、空から……」

『うん、落ちてきた』

「『…………』」



あたしはあっさりと、落ちてきたことを認めた。

そしたらなんでか、沈黙が出来た。

重い空気とかそんなんより、信じられへん、みたいな空気。


……そんなん、あたしかて信じられへん。

まさか自分が空を急降下してるとか、まさか自分が高い高いとこからおちて死んでないとか。

だって、ねぇ?

誰がこんなこと信じられるよ?



「とりあえず、のきなせェ。それから連行しまさァ」

『あぁ、すいません。……って連行?!』



思わずでかい声出してもた。

もちろん、この人の上からおりてから。


連行なんて、犯罪犯した人とか容疑かけられてる人とか、そういう人がされるモン……やろ?


あたしなんもしてないのにな、なんてのんきに考えてみる。

けど、意味はナシ。

状況はなんにも変わったりしーひん。



「ついて来なせェ」

『はぁ……』



(たぶん)面倒臭そうに(聞こえたはず)返事して、そこに落ちてた自分の鞄を拾う。

あたしはその人に渋々ついていった。


一体、何なんやろ?

あたし何されるんやろ?



「おぉ、総悟。さっきの音は……」

「コイツが落ちてきた音でさァ」



総悟と呼ばれた人は、グッジョブの手の形で、親指であたしを指して言う。


いかにも“ゴリラ”と呼ばれてそうな人は(初対面なのにごめんなさい!)、あたしを見る。

うーん、ストーカーとかもしてそうだな。



「そうか。……って落ちてきた?」

「空から落ちてきたんでさァ」



あたしのことを話してるようで話してない、なんとも微妙な空気。

耐えれへんことはない。


でもなんつーか……地味に嫌やなぁって思う。



「そういや……アンタ、まだ名前聞いてやせんでしたねィ」



突然、声をかけられる。

ちょっとびっくりしたけど、あたしはちゃんと答えた。



『えと、疾風珠姫です』



そう言って、総悟と呼ばれた人を見上げて。



「俺ァ沖田総悟でさァ。事情聴取、させてもらってもいいですかィ?」

『ん、まぁ、あかんことはないけど』



あたしが返事をすると、沖田総悟という人物は、あたしから目を逸らす。

逸らすって言うても、視線をさっき現れた人に移しただけやけど。


近藤さん、と沖田総悟という人物は呼ぶ。

近藤さんと呼ばれた人物と、沖田総悟という人物は、少しだけ話をした。


何の話をしてたんかは、あたしがボーっとしてたから全然わからへん。

少し経ったら、アッハッハ、と笑って近藤さんという人物はどっか行ってもた。



「疾風さんは、どうして空から落ちてきたんですかィ?」

『珠姫でえーよ。苗字で呼ばれるんは、変な感じするし』



嫌ってわけやないけど、なんか慣れへん。

いっつも周りからは、名前で呼ばれてたから。

でもそーいや……あの日からは、苗字さえ呼ばれへんように、なったな……。



『家出しよ思て鞄に荷物詰めたら、急に視界がピッカーンて光って、落ちてた』



更にあたしは続けた。


沖田総悟という人物は、少しだけポカンとしてる。

……ように見える。



「要するに……違う世界からトリップしてきた、ってことですかィ?」

『ちゃうちゃう。トリップやなくて、瞬間移動的な?着物着てるわけやし』



トリップ、という単語を出してきた沖田総悟という人物。

ホンマに違うわけやから、あたしは訂正を入れる。



「そう言われればそうですねィ。どっから来たんでさァ?」



そしたら今度はちゃんとわかってくれた。



『京。京の人みたいにのんびりした性格やないけど。ほんでここは?』



のんびりした性格。

そう思ってるんはもしかしたらあたしだけかもしれへん。

京の人はのんびりした性格やないっ!って主張する人がおると思うけど……。

あたしの解釈なだけやから、あんま気にせんとって!



「真選組でさァ」

『真選組、か……。ちょうどいいや、行く宛もないし、入れて!』



京、という言葉に、沖田総悟という人物は納得したみたいや。

あたしの喋り方とかに。


ていうか、真選組言うたら、警察やんな?

幕府特別武装警察。

名前は聞いたことあるけど、実際見たんは初めてやなぁ。


軽いノリで入って、大丈夫かなとは思う。

けどたぶん、大丈夫やとも思う。

ただなんとなく……なんとなくやけど、そんな気がするから。



「近藤さんに訊いてみまさァ。ついて来なせェ」

『あ、うん』



あたしの返事を聞くと、沖田総悟という人物は歩き出す。

あたしもあとについていく。



あたしが京から江戸に、瞬間移動的なんしたそのときから、あたしの――あたしらの運命は動き出してた。

けどそのときはまだ、なんにも気づいてへんかった。

これから起こる幸(こう)も不幸も、全部神様の悪戯――。

神様が仕組んだ、運命の分かれ道。



君の上に落ちた。

それが、あたしの運命を変えたきっかけ。






(2009.07.23)


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