君の中へ堕ちてゆく

□14
2ページ/2ページ




俺ァ朝、普通に目覚めた。

もちろん土方さんの怒声で。

相変わらず、朝っぱらからうるせェや。


仕方なく起きて隊服に着替えて、俺ァ食堂へ向かった。


何にも違和感なんて覚えなかった。

食堂の料理の味だって同じだった。

隊士たちだって全員違うところはなかった。


だけど俺の中には、変な感じがあった。

なにか言葉に出来ないような変な感じが。


それはいつまで経っても消えることはなかった。

仕事をサボって木の上で寝て土方さんに怒られても、山崎がミントンしてるのが見つかって、土方さんに怒られてるのを見ても、昼飯を食って、昼寝をしても、土方さんのマヨネーズに仕掛けをつけてみても。

とにかくなにをしても、その変な感じは俺の中から抜けなかった。


変な感じが抜けないまま、時間はどんどん過ぎて行った。

遂には夜になっちまった。


風呂に入って部屋で一人、俺は考えた。

何が違うのか、何に引っかかっているのか。



「珠姫が、いねェ……?」



……そうだ、今日俺ァ珠姫を見てねェ。

珠姫と話してねェ。


そう、理解したときのことだった。



「っ!」



突然部屋に天人が入ってきて、俺を動けないようにした。



「気づいちまったみたいザマスな」

「てめェら……なにをする」

「大人しくしてるザマスよ」



天人はそう言うと、俺の口の中に何かを入れた。

それはカプセルのようなもので、薬かなにかみたいだった。

具体的になにか、というのはわからない。


頭の中では、危ないというシグナルが送られている。

だから俺は、抵抗した。

飲み込まないように足掻いてもがいた。


だがその抵抗も虚しく、無理矢理飲み込ませられた。



「おい、天人……」

「なんだ、まだ意識があるザマスか?」

「珠姫を、何処に、やった……?」

「珠姫?誰ザマスか?」



だんだん意識が朦朧としてきやがった。


こいつらは俺に、一体なにを飲ませたんだ……?



「とぼけんじゃねェ……てめェらが、珠姫を、何処かに、やったんだろ……?」

「珠姫なんて知らないザマスよ」



なんとなく、嘘を言ってはいないような気がした。

だけど、全部嘘を言っているような気もした。


何処にも確信なんて、なくて。



「言えるのは、我らがお前を誘拐したことだけザマス」



俺ァ、誘拐された……?

珠姫がじゃなくて、俺が……?


意味はすぐに理解出来た。

驚くほどに早く。


そこまで考えたところで、俺の意識は飛んだ。


そのあとどうなったかは、全くわからねェ。




恐怖と不安と心配が、一気に襲ってきた。

これから俺や君たちは、どうなってしまうのだろうか……。






(2009.07.23)


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ