君の中へ堕ちてゆく

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その日の昼頃、俺と珠姫は甘味処へ行くために屯所を離れた。


俺も珠姫も、今日は仕事が入ってる。

だけどバリバリサボって遊びに来た。


仕事なんていいんでさァ。

珠姫との時間を、大切にしたい。



「珠姫、仕事、よかったんですかィ?」

『それ総悟が言う台詞やないって。いーの別に、仕事くらい』

「本当に、ですかィ?」

『えーモンはえーねんって。一回くらいはサボらんとな』



珠姫は笑う。

つられて俺も笑った。


ポツリと、珠姫は何かを呟いたような気がしたけれど、何を呟いたのかは聞き取れなかった。

え?と聞き返すことは、敢えてしなかった。



『総悟!これむっちゃ美味しいで!』



注文したものが届いて、それを食べた珠姫が言う。

その顔は、いつものあのはじけるような笑顔だった。


俺の、思い違いかもしれねェ。

だけど珠姫からは、何だか変な感じがする……。



『ほら、ちょっち食べてみて!』



珠姫に促されるまま、差し出された珠姫が口をつけたスプーンに乗せられたパフェを食べた。

マンゴーの味がする。


珠姫が注文したものとは、最近新発売されたマンゴーパフェなのだ。

俺は、無難にイチゴパフェ。



「美味ェ」

『やろっ?!』



珠姫と顔を見合わせて、笑った。

違和感はどこにもなかった。


不意に、珠姫のパフェを食べる手が止まった。

パフェをじっと見つめている。



「珠姫?」



声をかけてみても、反応はなし。


……やっぱり、今日の珠姫は変だ。

どこかおかしい。

俺と一緒にいるのに、違うことを考えているようなそんな感じだ。


心ここにあらず、という表現が、合っているだろう。



「珠姫?どうしたんでさァ?珠姫、」

『……!あ、ごめんごめん、ちょっと考え事してたわ。厠、行ってくる』

「珠姫……」



引き止めたくなった。

俺から離れて欲しくなかった。


ここは甘味処だから、珠姫はどこにも行かねェで俺の前の席に戻ってくるってわかってる。

だけどなんだか、珠姫がどっか行っちまいそうで……。

また関係が壊れかけちまうんじゃねェかって、怖くなった。



数分経って、珠姫は戻ってきた。

心なしか、目が少し赤かったように思う。

気のせいなら、それでいいんだが……。



「珠姫、今日は付き合ってくれてありがとうごぜーまさァ」

『どーいたしまして。ちょうど、あたしも今日は一日総悟と一緒におりたかったし』



夕方までずっと、俺と珠姫は甘味処で話し込んでいた。

話のネタが尽きることはなかった。


楽しかったけど……珠姫はどこか変なままだった。



「珠姫、」

『ん?』

「……いや、なんでもねェ」

『そっか』



二人して黙ったまま、屯所まで歩いた。


屯所に戻ると、すぐに土方さんに見つかって長々と説教をされた。

俺は、珠姫のことで頭がいっぱいで、土方さんの話なんて全然耳に入ってこなかった。




珠姫……、と、夜中に一人、何度も名前を呟いた。

もしお前ェがいなくなったら、俺ァどうしたらいいんでさァ……?






(2009.09.11)


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